レンズ
2
その声に一度はあいつを見ようとしたが、見る前にすぐ視線を戻す。
少しの間、私の返事を待っていたが、返さないことが分かったのか、また話し出す。
「…ご主人様、熱出したんッスよ。」
「え。そうなんですか?!」
「…初めてッスね。先輩と挨拶以外の言葉を交わすの。」
ぱあっと笑顔になるあいつ。
しまった。と思ったが、私のそんな意地なんかより、御主人様の方が大事だ。
「…そっそんなことより、御主人様は大丈夫なんですか?」
「熱の方は大丈夫らしいッスけど、上手くいって欲しいッスね。」
「そうですね、早く治っていただきたいですね。」
そう言うと、あいつは複雑そうな顔をする。
「…それも、そうなんッスけど。」
「ん?ああ。勉強のことですか?確かに、休んだ分を取り返せると良いんですが、あまり要領の良い方ではないので心配ですね。」
そう付け加えたが、またも私の返事が的を射ていなかったのか、迷うようなそぶりを見せた。
「いや。そうじゃなくて、……恋の方ッスよ。」
「…鯉?」
一瞬、頭の周りに鯉が泳いだ。
「恋ッスよ。ラ・ブ。」
「…どういうことですか?」
「先輩、知らないんッスか?!人を好きになるってことッスよ。」
「そんなことは知っている!!御主人様が恋をしているのか。と聞いているんです。」
一際大きなリアクションで聞き返してくるが、流石に私でも恋くらいは知っている。
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