レンズ
1
最近、御主人様との時間が少なくなった。
それもこれも、全部あいつのせいだ。
「おはざいまーす。先輩」
爽やかに挨拶してくる今時のイケメン。
「…おはようございます。」
厭味なほど丁寧に、相手の目を見ることもなく挨拶を返す。
御主人様は学校に行くのもいつもあいつと一緒。
今までは私の役目だったのに。
私は御主人様を取られてしまった気がして、どうしてもあいつが気に入らなかった。
幸い、会うのは御主人様が学校に行く前と帰ってきた後ぐらいで、その時間も短い。
だから、別に関わらなくてもいいのに、何故かあいつはいつも挨拶をしてくる。
向こうから挨拶してきたのに、それを無視するのは礼儀に反するので一応返す。
それだけだったのに、ある日、気づくとあいつが隣にいた。
目を合わさない様に違う方向を向いて、話しかけるなというオーラを出した。
しかし、そのオーラもあいつには伝わらないらしく、話しかけてくる。
「あ。起きたッスか。おはざいまーす。」
「…おはようございます。」
それだけ返すと、いつも御主人様が来る方を見つめた。
早く来て下さい。御主人様。
そう願って。
こいつとの空間に長く居たくなかった。
しかし、いくら経っても、来ない。来ない。来ない。
いつもはもっと早いのに。
「ご主人様大丈夫ッスかねー?」
隣から聞こえてくる声。
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