必然じゃなくていい 1 震えつづける携帯をそのままに俺は人が行き交う駅前をずっと見つめていた。 誰かと待ち合わせしているわけでもなく、もう何時間も。 そこは、つい先日鈍臭いオタクみたいな奴がメガネを落とした場所だった。 もう一度会いたいと思ってここに来たんじゃない。 ただ、偶然会ったら、何か一言言ってやろうと思ったぐらいだった。 しかし気付くと何時間もこうしてここにいることが多くなった。 そして、時折だっさい黒髪を見つけると駆け出し、あいつじゃないと分かると、もといた場所に戻る。 そんなことを繰り返していた。 夏休み中ずっとそうしていたが、結局あいつを見ることはなかった。 日ごとにイライラしていくのが自分でも分かる。 新学期が始まったが元々真面目授業に出るタイプでもなく、屋上でタバコから出た煙が青い空に消えていくのを見つめていた。 すると屋上の錆びた扉が開かれ、見慣れたツンツン頭が出てくる。 「お、陸。こんなとこに居たのかよ。って、おい。今度はどこ行くんだよ。」 そいつとすれ違う様に俺は校舎に入る。 「帰る。」 「…最近、付き合い悪いよな。」 イライラをぶつけてしまいそうで、人と関わることを避けていた。 人の顔を見て落胆することがここ数週間で染み付いてしまっていて、もう誰の顔も見たくない。 [次へ#] [戻る] |