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キスじゃ死ねません(仮)

その時、俺は授業中の静かな階段を上っていた。

完全に遅刻なのはわかっていたので走るのも馬鹿馬鹿しく携帯をいじりながらゆっくりと。


そして、気づいた時には目の前に人が覆いかぶさっていた。


走っていたのか、そいつは物凄い勢いで俺にぶつかり、手に持っていた物を全て飛ばした。

そいつは俺を押し倒すような形で顔の横で手を突っ張って四つん這いになっていた。

だから、顔を上げると、そいつの前髪のカーテンと今まで見たことの無いほど美しい顔が見えた。


「すいません。」


その顔と目が合うと謝られる。

でも、そんなことより、膝が思いっきり俺の股間に押し付けられていてることに、早く気づいてくれ。


「と…とりあえず、…早くどけ。」


そいつはもう一度と謝ると離れていく。

でも、手から先に離すものだから、必然的に膝にかけられる力が強くなり、俺は小さく呻いた。

離れたそいつを見ると、ワイシャツにはたくさんのシワが入っていて、ボタンも2つ開いている。

頭も伸びっぱなしのぼさぼさで、折角の綺麗な顔を前髪が完全に隠していた。

普通なら、汚いと思うそれも、何故かその時は色っぽいと思った。


そいつは散らばった物に気づくと、慌てて拾い集め始めた。

俺も無意識に近くの本を手にとる。

ほとんど全ての物を拾い集めたそいつは、俺の持っている本に、手を伸ばす。

俺は最初その本を普通に返そうとして、直前で思い立ち、引っ込めた。


「お前、…名前は?」


本を人質に取るようにして尋ねる。


「……伊藤祐利。」


渋々っといった様子で答えるそいつに本を返すと、すぐに走ってきた方向と逆方向へ走り去った。





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