Again
5
「親に連絡しないとな。番号はわかるか?」
「…わからない。」
「そうか…。あ。そういえば、お前、名前は?」
「…わからない。」
その言葉の異常さに俺は髪を乾かす手を止めた。
「は?それは嘘だろ。…まさか、電話番号がわからないっていうのも、道に迷ったっていうのも嘘か?」
俺は眉をひそめ怪訝そうに聞いた。
「ちがうっ。…違うっ。」
「お前、家出して家に帰りたくないだけなんじゃないのか?」
まんまと泊まる家を見つけたと思ってるのかもしれない。俺はその時そう思った。
「本当にわからないだ。何も覚えてないんだよ。」
でも、お前は泣きそうになりながら、首を振って必死に伝えてきた。
その切実さは俺にもはっきりと伝わった。
「何も覚えてないって…、記憶喪失か?」
「そう…かもしれない。」
お前は肩を落として言った。
お前の所持品には携帯も財布も身分を示す物は何もなかった。
「いつから記憶がないんだ?」
「気づいたら、あの道路でうずくまってた。」
「そうか…、疑って悪かった。…怖かったな。」
俺はお前の頭を抱え込むように抱きしめ、背中を撫でた。
「…うっ。うぐっ…。んっ…。」
お前は俺のTシャツを握り締め、呻くように声を漏らした。
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