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弱者と強者

 二人は辺りを見回す。あちらこちらで勃発する喧嘩と肩組。つまり、彼らも"海賊"なのだ。しかし、二人は顔を隠したまま、端へと避け、カウンターに座り、食事を受け取る。
「しかし、すごい参加者だなーこりゃ」
 ネオが言うと、エースも違いねえと、受け取った食事を腹に放り込みながら辺りを改めて見回した。
 そんな二人の会話を聞いていたのか、カウンター越しの男がそりゃそうさ! と、高らかに話に入ってきた。
「こいつらは全員凶悪で賞金もばかにならねえ海賊ばかりだ。まあ、俺からみたらクズもいるがな……」
 笑いながら言う男に興味を持った二人はその男に顔を向ける。体格のいい男は料理を続けながら笑っている。
「おっちゃん、こんなかに知ってる海賊いるのか?」
 ネオの言葉に男はおっちゃんじゃねえ! と言いつつ、あいつを見ろと、指を指した。その先に二人が目を向けると、いかにも強そうな体格の男が、周りに女をはべらせながら酒を樽ごと呑んでいる姿があった。
 うわぁ、と思わず声を上げたネオの言葉に笑いつつ、男は続けた。
「あいつは獄長のシルド。あの背中にある刀はどんな刀より長い。それを操るってとこからきてるらしい」
 確かにシルドと呼ばれた男の背中にはエースも超えるであろう長い刀があった。
「賞金は5000万、極悪非道で女好きとして知られてる。まあ、気をつけることだ」
 ふうん、と飯を食いつつ答える二人を他所に男は続ける。次に指された男は見た目は華奢だが、その見た目の異常さに眉を二人とも潜める。指を指された男の身体のあちこちにハサミが仕込まれていたのだ。
「あいつは挟人のジャイル。まあ、見た目の通り挟男なわけだが、あいつは相手によって鋏を使い分け、死体を肉片にするのが趣味だと聞いた」
 思いっきり肉を食べてたネオは思いっきり吹き出す。
「こいつは賞金8000万。まあ、要注意人物だな」
 水を飲むネオを他所にエースはほかには? と、男に続けさせた。そんなエースの言葉にうーむ、と男は続ける。
 辺りの様子を伺いつつ、二人を手招きし、耳打ちした。
「超大物と言うと、あの白髭から出ると言う噂が出たんだ」
 男の予想外の言葉に二人は吹き出しそうになるが、堪えつつ、男の言葉に耳を傾ける。
「だが、今のところ俺の知ってる白髭の仲間は見てねえ、お前ら見たところ二人参加のようだが?」
 疑うような、心配するような言い方に二人は笑顔でおう! と答えると男は眉を潜めた。
 そして、また静かに耳打ちする。
「なら気をつけることだ。白髭は格が違う。それと今言った二人の海賊には気をつけろ」
 目の前の二人が白髭とはつゆしらず、心配する男の言葉に笑う。
「ありがとな、おっさん! まあ、適当に優勝して、賞金さっさとらもらってくるわ!」
 と、のりのりなネオに、男は慌てて声がでかい! と、抑えようとしたが遅かった。近くにいた海賊たちの耳に入ったのだろう。顔もしれぬ海賊たった二人はあっという間に囲まれた。
 囲んだ海賊の面々は怖い顔で睨みつけたり、ばかにしたように笑ってるやつもいた。そんな中を押し退け、真っ正面に来たのは最初に話題に出た獄長のシルドだった。
 二人よりはるかにでかいシルドはバカにしたような顔で二人の後ろについた。
「いま、優勝と言ったか?」
 バカにしたような言い方に周りもにやにや笑っている。たった二人の名もしれぬ海賊が優勝などあり得ない。そんな空気が漂っている。ここにいる誰しもがこの二人が優勝など、あり得ないと思っているのだ。
「たった二人でか? 笑わせる!」
 シルドの大笑いに辺りも笑いに包まれた。何も言わない二人にどうした? と、近づくシルドの目の前に痺れを切らしたネオが立ち上がった。
「うーん、あなた方は逃げれば勝ちという言葉をご存知ない?」
 小馬鹿にしたような言い方にあたりは静まり返る。シルドはなんだと、と怒りを露わにした顔で迫った。顔の見えないネオだったが、エースは分かっていた。いまネオは笑っていると。
「つまりレース何ですから、戦わずとも勝つ方法はいくらでもありますよね? あなたは戦えても"航海術がなければゴールには辿り着けない"、違いますか?」
「喧嘩を売る相手を間違えてるぞ坊主」
 怒りに震えるシルドに、エースは止めに入ろうとするが、ネオがそれを手で制止する。
「図星付かれて暴力? それこそ無能な猿。ああ、あなたはどちらかと言うとゴリラかな?」
 その瞬間、シルドは拳を振り上げ、ネオがいた場所は粉々に粉砕した。ネオは周りにいた海賊を飛び越え、後ろの机に悠々と着地する。エースは横に避難するが、周りの海賊に襲われる。
「殴り合いは好きじゃないんだけどなあ」
 と言いつつ、シルドの攻撃を避け、自ら手を下さず周りの海賊を倒して行くネオに、エースはため息をつく。そんなエースも周りの海賊を悠々を倒して行った。
「そういいつつ、レースの敵を減らしておこうとか思ってたんだろ」
「あ、ばれた?」
 てへ、と舌を出すネオ。そんな二人の余裕っぷりに腹が立ったのか、シルドは背中に仕込んである刀を取り出し、斬りつける。それも無駄な動きもなくかわす2人。そして、お開きというように近くのナイフを手に、たたみかけ、首元にナイフを突きつけた。
「もう、お開きにしませんか? 楽しみはこの後にとって置かないと」
 無邪気な言葉にシルドは何も言えず、刀を落とした。それを見たネオはその場を離れた。帽子に隠れた顔は無邪気な笑みを浮かべていた。
 エースもその後に続くが、待て! という言葉に二人は立ち止まる。それは先ほどまで情報を提供してくれた男であった。
「お前らは、何者なんだ?」
 そんな男の疑問に、二人は振り返り、笑った。
「俺は"リア"」
「俺は"ディース"だ!」
 それだけを残し、消えた二人に残された海賊は何も言わなかった。

「名も始めて聞いた……そんな、海賊が、デットエンドレースを制覇する、の、か?」

 男の疑問に誰も答えることは無かった。だが、それは誰もが過ぎった考えだった。それほどまでに、二人と彼らには力の差があったのだ。


  *


 その場を離れた二人はまた違う席で食事をしていた。
「これでだいぶ敵は減っただろ!」
 笑いながら言うネオに、あのなあ、とエースはため息混じりに言う。
「正体隠してるのはレースを楽しむためだろうが、最初っからあんな力の差歴然に見せ付けたら誰も近づかないだろうが」
 エースの言葉に首を傾げ、なんでさーと笑う。
「逆だよー」
「逆?」
 意味がわからないと言った風にエースが今度は首を傾げる。それに対し、にやりと笑ったネオは鼻歌を歌うように言った。
「力の差を見せ付けることで、弱者は関わらなくなるけど、逆に強いやつは倒そうって思うじゃん? まあ、人を減らしたいってのもあるけど。スリルを味わうならこんくらいのほうがいいって! あー楽しみ!」
 そう、無邪気に笑ったネオにははっと渇いた笑みを浮かべることしか出来ないエースは心から思った。育て方を間違えたと。





あきゅろす。
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