葵に連絡が入ったのは事故の五時間後だった。司は重症で病院に運ばれ、先ほど、息を引き取った、と。
駆け込んだ時、司の周りには誰もいなかった。
「……なん、で」
涙がこぼれ落ちる。
「何で、何でなの、何で司がこんな目に合わなきゃならないわけ? 司は十分――」
「そいつの運命だ」
後ろからのいきなりの声に振り返る。先ほどまで誰もいなかった部屋には少年が立っていた。少年と言うには不釣合いの威厳があるように見える。
全く気配というものが無い少年は、まるで微笑んでいるようだ。まるで。
「何なのよ、あんた」
「轢かれた時に助けてもらった者だ」
凛と、答えられた言葉に、葵は拳を握り締める。唇を噛み締めた。
怒りを覚える。まるで、反省も、涙もないような少年に。
「……あんたのせいで、あんたのせいで司が?!」
「こいつを助けてやるには方法がなくてだな、いったん魂を抜くほか、こいつを救う方法がなかったのだ」
「はあ?」
この結果がわかりきっていたかのような口ぶり、まるで、司が助かるような口ぶりに葵はただただ、少年を見つめるしか出来なかった。
息をついた少年は司に静かに近づく。
「僕はこいつを助けてやりたかった。不幸を生まれ持ったこいつを。だが、それは運命。この世界では決して立つ事の出来ない不幸だ、だから」
――それを断ち切る
葵は息を呑み、少年を見つめるしか出来なかった。それは一瞬。
少年が司の胸元に手を置いたかと思うと、いきなり光が放たれた。そして、少年の手には光が握られていた。
「これは司の魂。こいつはシアワセを望むという事が無い。だからお前が望め」
「え?」
「司のシアワセを」
そう、微笑んだ少年は無邪気。
葵は少年の手に握られた光を包み込む。信じがたかったが、信じたかった。
司がシアワセになって欲しいなんて、どれほど望んだ事か。どれだけ、神に祈ったか。
「もう、十分でしょ、司。シアワセになって――」
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