誰かに呼ばれた気がした。
気のせいだろう。葵はもう、家に帰った。
眠たい。昨日は珍しく宿題をやったんだ。だから、幻聴が聞こえるんだ。そうだ。
まるで俺を呼ぶ声。
赤信号。ぴたりと止まれば、周りの車は動き出す。日常は同じことを繰り返す。毎日、毎日、同じことを。
今日も同じだった。同じはずだったんだ。
走り出してた。目の前に少年が車に轢かれそうになっていたから。
ゆっくりと車は俺を撥ねた。少年は俺が押し出して、トラックには当たらないように見えた。一瞬の出来事で、本当かどうかは定かではなかったけれど。
人助けして死ぬって、俺って結構、優しげ?
やっと、やっと死ねるのか……死にたいって、何度も思ったんだ。嬉しいのに、何で、何で悔しいんだよ。
――それが君の本音かい?
……俺の、本音?
まだ生きたい、でもこの世界はつまらない。それが本音かい?
俺は、死にたいんだ。母さんに会いたいんだ。
己のシアワセはあくまで望まない、か。
望んじゃいけないんだ。お前、さっき轢かれそうになってた奴だろ? 大丈夫なのか?
……お前は
大丈夫なら良いんだ
時はゆっくりと動き出した。
トラックの運転手は轢いた青年の元へ駆け寄り、救急車を呼んでいる。周りはざわざわと人が人を呼ぶ。
青年は重症だった。
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