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 これは何年前の記憶だっただろうか。
 そう、確か、俺がまだ小学四年生の時だった。
 母さんは日本人と英国人のハーフの生まれだった。そのためか、俺は背が高く、肌白。そして、瞳は紫だった。母さんは黒い瞳を持って生まれたが、英国人である祖父が紫の瞳を持っていた。それを受け継いだようだ。
 純日本人である父さんも180を余裕でこえる長身ということで、俺の身長は小学四年生で、すでに155を越えていた。
 家は剣道場で、二つ上の兄貴とよく争っていた。一度も兄貴に勝つことは出来なかった。そして、母さんにも。

 剣道場の中、竹刀を手に猛攻を仕掛けるが、兄貴の本気の跳ね返しには勝てず、床に転がってしまう。竹刀を向けられ、睨み付ければ、笑いながら竹刀を肩に担ぐ。
「馬鹿! 大人しく負けろよ!」
「ははは、お前は俺には勝てないって」
 そんな兄貴の言葉にいつも不貞腐れていれば、母さんは豪快に笑っていた。
「しょうがない、しょうがない。また戦えば良いじゃない」
「母さんがそういうこと言うからこいつが諦めないんだろ……」
 そんな兄貴の言葉に、母さんは目を丸くして意外そうな顔をした。
「あら、それじゃあまるで、司がお兄ちゃんには勝てないみたいじゃない」
「女の司が俺に勝てるわけないだろ」
 そう言って笑った兄貴に思いっきり鉄拳を喰らわせた。頭を押さえて、何すんだよ! って抗議した兄貴にそっぽを向く。そんな俺に、母さんはまた笑った。


「ムカつく! 母さんは女は男に勝てないと思う?」
 塾に行った兄貴に取り残された女二人。母さんは竹刀を片付けているが、俺は座り込んでそんな母さんを見つめていた。
 俺がそんな質問をすれば、母さんは笑った。
「勝てないわけ無いじゃない。私はたっくさんの男をぶっ飛ばして来たわよ?」
 軽々しく言った母さんに俺は目を輝かせた。
「本当?!」
「ええ。私は男っぽくてお転婆で大変って良く言われたわ」
 そう言ってくすくす笑う母さんに、俺は憧れる。強くて、美しくて、俺の自慢だ。この瞳の色に嫌悪感を感じたこともあった。だけど、母さんを嫌いになんかなれなかった。
「母さん」
「なに?」
 振り返った母さんに笑いかけた。
「俺、絶対に勝つから! 稽古つけてくれよ!」
 そうやって言えば、母さんはもっちろんと、笑い、片付けていたうちの一つを手に持ち、構えた。俺は立ち上がり、母さんに構える。

 いつか、兄貴よりも強くなる。これが俺の目標。そして、出来れば母さんのようになりたい――







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