そんなこと 分かってる
「エース、」
思わず手を伸ばしていた。消え入りそうなネオの声にエースは振り返った。震えるネオは赤子のようだ。
エースは大丈夫と、答えることしか出来ない。その理由は明確だった。
俺はネオのことを知らなすぎた
前々から思っていた事だった。いつかはネオのことをもっと聞こうと思っていた。
全く訳の分からない、ONE PIECEという漫画で知っていようとも、ネオのことを知る者はいないのだ。
後悔がただ、胸の内を巡った。
「今日はここで休むか」
大して離れていないところに島があり、二人はすぐに宿へと向かった。ベッドに転がったネオとは違い、エースは今まで忘れていたはずの空腹感を満たすため、いつもの倍は食べている。
ネオはそんなエースに目も向けず、体育座りで顔を埋め、幻聴に耐えていた。
――貴女の罪は生きていること
でも、母さんは
もしも これ以上 周りを不幸にしたくないなら
だけど……!
さあ ナイフを首に当てなさい
すぐにあの世の母さんにアエルワヨ
まるで操られているかのように、急にネオは立ち上がった。エースはネオにどうした、と聞くが何も答えず、走って部屋を出てしまった。
エースは嫌な予感がし、ネオを追いかけていた。
その予感は的中していた。
外へ出たネオは人目につかない茂みへと入り、氷のナイフの様なものを手に持ったかと思えば、それを首へ当てようと……いや、首を自ら跳ねようとしていたのだ。エースは咄嗟にその腕を掴んだ。
エースの方を見つめたネオは怯えている。
「何やってるんだよ」
静かに、怒りを抑えたエースの言葉だったが、ネオはその腕を振り払った。
「俺は死ぬはずの人間だったんだッ!」
そんなネオの叫びに、エースは叫び返した。
「ふざけんな! 死ぬはずの人間だったとか俺が知るかよ!」
そんな言葉にネオは唇を噛み締めた。唇の色が変わるくらい。思いっきり。
「俺はお前にたくさん助けられた。俺を助けることが生きる理由じゃダメなのかよ」
「……」
「辛いことがあったとか、そんなこと知らねえよ。辛いなら俺に叫べばいい」
「……」
「お前は俺の家族だ」
「何でそう言える」
そう笑うエースに、ネオは唇を噛み締めながら呟いた。瞳から溢れ落ちる涙は止まらない。
「俺が一体何をしたか知らないくせに……何でそんなこと言えるんだよ」
「……ネオ」
「俺は罪人だ、"あっちの世界"じゃ殺しは一番の罪だ! 俺は、俺は」
拳を握りしめ、俯くネオの拳を握りしめる。そんなエースにネオは顔を上げる。
エースは相変わらず笑っていた。
「話せよ」
「……え?」
「何があったか、話せ。ネオは一人で抱え込みすぎなんだよ、だから話して少しでも他のやつと共有すればいい」
いつになく真剣なエースに言葉に詰まるが、ぼそっと呟く。
「幻滅するぞ」
「絶対ない」
「最低なやつだとおもう」
「思わない」
「嫌いになるかも」
「ならない」
一瞬で返ってくる答えに、また溢れる涙を押さえる。決心する。いつまでもこのままではいられないと。そして、奥深くへとしまった記憶を振り返る。
エースになら、そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと、語り始めた。
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