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 雨が降りだした。まるで、全てを洗い流すかのように。汚い心の汚れを落としているのか、それとも誰かが泣いているのか。
 エースはびちょびちょになりながら、ネオの名前を叫ぶ。無人の廃虚から、返事が返ってくることはない。随分と歩き回り、諦めかけたその時、ただしゃがみこみ、地面を見つめている女性を見つけた。後ろ姿ではなく、その圧倒的な雰囲気、そして存在感。
 エースは近づき、名前を静かに呼んだ。もしかしたら、ネオが泣いているのかもしれない。背中からは泣いているのか、分からないがエースにはそんな気がした。それとも、涙がバレないように落ちてくるのか。

「ネオ」
「……」
 名前をもう一度呼べば、ネオは静かに振り返った。その顔には表情が無かった。その瞳には何も写さない。
 いつもとあまりにも違う雰囲気に圧倒されつつもこのままネオを突き放せば、二度と戻ってこない。そんな気がした。
 身体は勝手に動いていた。

「帰るぞ」
 抱き締めた身体は冷たかった。体を震わせ、黙っているネオをまた、強く抱き締めた。どこかへ行かないで欲しい。このままでは、どこかへ消えて……無くなってしまうのではないか。
「ネオ、帰るぞ」
「……っ、エー、ス」
 やっと口を開いたネオに安堵しつつ、その声が震えていることに、不安になった。
「ほら」
 離れ、手を差し出せば、眉を潜め、迷ったような顔をした。そのまま手を取る気配がなかった。エースは無理矢理腕を掴み、その場から離れた。ネオはここにいちゃいけない。そう、思った。
 ネオは何も言わない。これで大丈夫だったのか、それは分からないけれど。一人にしてはいけないのは、間違いないから。

「エース、大丈夫、だから」
 ふいにネオが口を開いた。エースは急ぎ足だったか、その声に不意に我に返った。急ぎ足からゆっくりになっていく。腕を掴んだまま、隣に並ぶように歩き出したネオに、顔を向けることが出来ず、だからと言って腕を離すこともできず、そのまま船を隠した洞窟へ向かった。


 二人とも無言のまま、洞窟へと入り、船に乗り込んだ。ここの洞窟は津波の影響を受けていないようだった。入口の崩れた岩を見たところ、入口をエースが塞いだんだろう。奇跡としか言いようがない。
 ネオは震えた。エースを助けたいはずの自分がエースを"殺そうとしたんだ"と。
 この力はエースを、たくさんの全く関係のない人でさえも、簡単に殺すことが出来るんだと。

 ――私は間違っていなかったでしょ

 また、不意にあの女の声が聞こえた。耳を塞ぎたくなる。塞いだところで消えるはずがないのに。

 ――貴女がいなければ
 生きる事の出来た命は
 どれだけいたのかしらね








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