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 近づいてきた海軍に、ネオは気付くことはなかった。いや、気付いていたとしてもただ、興味の対象から外されていたのかもしれない。ただただ、地面へと堕ちたレイたちを見つめ、血を手に取り、あの女の言葉に聴覚を支配される。

 あなたと関わる人はみーんな

 分かってる。分かってるから……!

 地獄へと堕ちるのよ

 この呪縛から逃れられたと思っていた。だけど、やはり、無理みたいだ。あの女は俺を一生呪うつもりだ。それが俺の罪。
 男は痺れを切らしたのか、ネオに近づき、腕を掴んだ。立たせようと引っ張り、声を荒げる。
「おいっ! 立て! お前も生き残りか……ったく、さっさと……――?!」
 振り返ったネオの豹変ぶりに海軍の男は小さな悲鳴を上げた。金色に光る瞳は、どす黒い闇を宿し、表情は削げ落ちていた。能面のような顔についた二つの瞳には、男の姿だけが映る。あまりの恐ろしさ、圧倒的な力に後ずさる男。叫びながら踵を返し、逃げ出した。ネオはそんな男に全く興味がないかのように、軽く目で追った後、また、レイの方を見た。膝の上に守るように乗せ、血の気のない顔を、頬を静かに撫でる。手に、レイの体温が伝わらない。冷たすぎて。
 ネオは、静かに呟いた。

 ――沈め、と





 波は静かに荒れ始めた。
 エースはネオを探しに、先ほどの門へと向かっていたが、いきなり曇った天候に不安を感じ、海岸へと出た。予想は的中していた。津波がこの国へ向かっていたのだ。この国を呑み込むほどの巨大な津波。ネオは海に好かれている能力を持っているが、エースはかなづちであり、海に嫌われている。ネオ探しをいったん諦め、避難をするしかなかった。

 津波は国を呑み込んだ。原型など、留めていなかった。津波が引いたことを確認したエースはネオを探しに出る。
 海へ出れば、津波に呑まれたのだろう、海軍の船の残骸が。そして、打ち上げられた魚。これがネオの仕業であるのなら、危険視されるのも頷ける。
 先へ進み、門があったはずの場所は瓦礫の山となっていた。門など、ほとんど原型を留めていない。
 そんな、原型を留めていない門をくぐり抜け、元々国があったはずの廃虚へと足を進めた。
 酷かった。いや、酷い何てもんじゃない。まるで――地獄絵図。
 死体は波に流されたのか、あちこち不自然な形で、打ち上げられた魚と同じように転がっていた。死体にも慣れていたエースだったが、ここまで酷いと思わず眉を潜めてしまう。臭いは、海水と死臭が混ざっていた。
 辺りを見渡すが、ネオらしき姿はない。もしかしたら、海軍に捕まったのかもしれない。
「俺が、止めていれば」
 悔やんでも悔やみきれない思いに、歯を噛み締めた。









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