そんなネオの変化に気付いた者はいず、レイですらも気付かなかった。
「何ですって?」
「まあまあ」
宥めるようにそう言ったネオはレイと反対の方角へ進む。踵を返したネオに辺りはざわめく。そんな中、またレイは鼻で笑った。
「今更逃げるの?」
「まさか」
立ち止まったネオの目の前には、針で出来た壁がある。逃げないようにするためだろうか。その中の一本を抜き取り、手にする。そしてレイの方へ振り返り、ふんわりと、今度はネオが微笑んだ。その微笑みに辺りの空気が一瞬にして変わる。
抜いた針を前に両手で持ち、構える。瞳は相変わらず金色に輝いている。
「ここからが本番って言ったろ? 楽しんで帰れよ」
悪魔のように無邪気に笑った。
辺りはしんとしている。レイは、ネオの前で膝まついていた。相変わらず、ネオは笑顔を絶やさない。
「敗けを認めるか?」
「……っ誰が!」
そう、叫んだ瞬間。ネオはふんわりと微笑み、レイの目の前に歩みを進めた。そして、手に持った針を首もとに当てた。ぷつっと切れた音とともに、首から血が流れた。
「ネオの勝ち!」
その瞬間、審判が危険と判断したのだろう。そう言って間に割った。その瞬間、黄色い叫び声が埋め尽くした。
「レイ様がっ」
「新しい女王の誕生よ!」
「宴よ、宴の準備よ!」
そんな叫びを上げながら、ネオの周りを取り囲む。そんな姿を一瞬見つめ、レイは踵を返した。その顔は唇を噛み締め、何かを言おうとしたが、立ち去った。
ネオは、はて、と今の状況に疑問を感じる。所々で記憶が抜け落ちているのだ。戦った記憶はほぼ無いに等しい。覚えているのはレイの自分に恐怖を抱いていたあの表情のみ。
そんなネオのことを遠巻きに見つめる輩が一人いたことに誰かが気付くことはなかった。
「宴ですわ! お姉様!」
「はいっ……?!」
「行きましょうっ」
そう言って腕を取られ、引きずられる。今さら空腹感が増す。腹が鳴った。
「腹減った……」
「では、宴をっ!」
「美味い飯がでるのか?」
「もっちろん」
少し考えた末、エースのことは全く頭に残っているはずがなく。
「行くぜ!」
笑顔で女性たちに着いていったとか。
その頃残されたエース。
「は、腹減った……」
ほぼ、死んだようにぐったりしている。ちなみにネオが出ていってから三時間が経過した。
鳴るお腹を止める方法をエースは知らない。
「あいつは何をやってんだよ!」
エースの叫びは誰に届くわけでもなく、海へと消えた。
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