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「我が侭聞いてくれてありがとな」
 にかっと笑ったネオに溜め息を吐きながら、いいさ、そう答えるエース。
 正直、ここに来て良かったと、心の底から思ったのはエース自身なのかもしれない。
「俺、産まれてからここにくるまで、海って見たことなかった」
 海を眺めて言うネオにエースは目を見開いた。エースにとって、海は家のようなもの。海のない生活何て考えられないからだ。
「海がないのか?」
 疑問をぶつければネオは笑いながら首を横に振った。
「まさか。なかったら、海って名前すら知らねえよ」
 遠くを見据えるネオは何かを思い出しているように見える。

「行きたかった。約束もした。でも、約束は守られなかった」
「何で……」
 エースがそう聞けば、ネオはこちらを見た。
「相手が来れなかったから」
 そう、小さく呟いた言葉に心は入っていなかった。エースはふと思う。ネオは俺自身のことを知ってる。だが、俺自身、ネオのことを、ネオの世界のことを全く知らない。

「……ネオ」
「さあ、次の島に行くか、エース! 次はどこだ?」
 伸びをしながら聞いてきたネオにあからさまな溜め息をつく。こいつの性格はさっぱり読めない。
 まるで暗い過去があるかのように見えたり、能天気に見えたり、何にも考えていないように見えたり。
 帽子を深く被り直し、夕日を眺める。もう、夜は近い。

「今日はここで野宿だな」
「な?!」
 何で! と、叫んで来たネオに、片方だけ耳を塞ぐ。

「お前がここではしゃぎすぎたせいだ」
「エースだって何だかんだで楽しんでたろ!」
「これから船を出したところで直に暗くなる」
「野宿は嫌だ!」
「何でだよ……もしかして虫が駄目だとか」
 笑いながらバカにするように言ったエースだが、ネオはけろっとした顔をして、目をぱちくりと見開いた。
「は? 虫、可愛いじゃん」
「……お前な、もう少し女らしい一面を持ったらどうだ」
「今更だろ」
 違いねえと、頭を抱えれば笑うネオ。あの時、懐かしく、美しいと感じたのは何故なのだろう。

「とりあえず、薪を拾って飯だな」
「……森に行くのか」
 森に振り返ったネオは、大袈裟な溜め息を吐く。あたりは暗くなってきている。怪しい声が森に響いた。
「俺、海で魚でも捕った方が早い気が」
 手を挙げて言うネオにエースは溜め息混じりに、分かったと答え、森へ行ってしまった。

 ネオはその場にしゃがみこむ。
「エース……俺が苦手なのは虫でも、雷でも、お化けでもない」
 震える身体を自分の腕で擦る。

「母さんを失った、満月で真っ白な夜の森の中何だ」

 小さく呟いた言葉は、海へと消えた。







あきゅろす。
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