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ソルジャーズ・スカイスクレーパーシリーズ
第1話 プロローグ
Year and month :    2036年 4月
Storyteller: 黒條 零(こくじょう れい)


2036年。
これはまだ、私が中学一年生になる頃の事・・・・今思えば懐かしくもあり、
全ての始まりの出来事が起こる前の話。
勿論、今親しいみんながまだ私の傍にはいない頃で、
今とは違って、髪もまだ黒髪で長くて右目の視力も正常で
まだごく普通の人間だった頃の話――――――



私の名前は黒條零。
はたから見ればどこにでもいる、小学校を3月に卒業して
これから中学一年生になろうとしているごく普通の将来に夢と希望がある学生。

私は両親を幼い頃に交通事故で亡くした。私が物心つく前の2才の頃に。
お母さんはバツイチで私のお父さんと再婚して、そして私は生まれた。
物心つく前の事だったので、私はお父さんとお母さんの事は親戚から話を訊くか
残された写真とビデオでしか確認が出来ない。
お父さんとお母さんは仕事先で知り合った事が交際のきっかけで、
バツイチのお母さんは前の旦那さんと長らく冷戦状態で別れた後、
お父さんと出会ったらしいけど、前の旦那さんとは不倫が理由で離婚の引き金になったみたいだ。


お父さんとお母さんが亡くなった後、私は埼玉の親戚の叔母さんの家にお世話になった。
親戚の叔母さんはお父さんの妹にあたる。両親を亡くしてすぐ、私には身寄りがなくなったから
赤ん坊だった私は叔母さんの家にそのまま引き取られる事になったんだ。
埼玉と言っても、都会ではなく山の近くで自然と都会の境目と言った所。
保育園を経て、小学校はその近くにある若村小学校という所に通った。

だけど、月日が経つにつれ、いつまでもこの家にお世話になる事に私は抵抗感を感じた。
叔母さんの家には男の子が二人ほどいる。どちらもまだ2036年現在では
小3と小1の低学年、旦那さんと共に共働きしなければ、とても食べてはいけない。
年長の私だけでなく、子供二人の面倒も見なければならないのだから叔母さんは毎日忙しい。
いつもそんなことお構いなしに私に優しくしてくれる叔母さんだけど、なんか悪いと思った。


だから私は決めた。この家にお世話になるのは小学校までだと。


小4の段階で自立を考えた私は小学校卒業後は親戚の叔母さんの家を離れ、
中学からは一人で東京で暮らす事を決めた。
バイトなんてまだ出来る年じゃないし、家賃や学費、生活費とかお金は
結局全部色々とお世話になってしまうだろうけど、
私一人さえこの家にいなければ・・・叔母さんも家で少しは楽が出来るはずだ。
二人の子供もこれから大きくなるし、私がいない方が叔母さんも楽になるはずだ。


実際にそれを言いだす時は最初は怒られるかもしれないと凄い怖かった。
けど、私は諦めなかった。それまで頑張って自分だけで家事が出来るよう、
積極的に叔母さんの手伝いを学校から帰ってきて毎日やった。
洗濯物の整理や洗濯、夕飯の準備ともう色々。
家事は小1の頃から時々やっていたけど、それを決心した
小4からは、より積極的にやるようになった。
それもあったから、成績は・・・・中頃かな。赤点だけは避けていたけど。
友達もいたはいたけど、自分の事を優先していたので、
あまり一緒に遊ぶ事は少なかった。


小学校生活の終わりが刻々と近づく12か月前に私は一人暮らしの意思を伝えた。春休みの終わりの事だった。
叔母さんも私の意思を聞いた時は「いいんだよ」と優しい言葉をかけてくれた。
旦那さんからは気難しい顔で「大変なんだぞ」と落ち着いた忠告をかけられたけど、
甘えてちゃいけない事と意思をきっちり伝えた途端、
反対する事もなく二人とも了承してくれて、私の意見を尊重し、
そんな私を家を出る時には気持ちよく送り出してくれた。
それどころか、私の姿勢を見て逆に「ありがとう」と感謝された。


そもそも私が小4の時、一人暮らししたいという考えを
抱いたのにはちゃんときっかけがある。
きっかけは、春の初めのある日、平日の夕方にやっていたニュースの特集。
内容は近年この日本では中学に入ってから、自分でアパートに
部屋を持って一人暮らしする学生も
珍しくなくなっているというものだった。
新生活が始まるシーズンなのもあって、
そういう物が放送されていてもおかしくはなかった。


主に自主性を早いうちにつけるための教育方針で
一部の学校には学生が一人暮らしするための
支援制度や環境がしっかり組まれている。


特にそれが大きく充実してる場所としては、お台場方面に学園都市って
呼ばれてる場所があるんだけど・・・名前は忘れた・・・
でもとにかく、そこがその教育と支援制度の
発祥の地でそういう学生が多く住んでいるみたい。
レストランもあるので、家事が出来ない学生も
お金さえあれば、始められるらしい。
簡単に言えば、巨大な学生寮に学校があると思えばいい。

だけど、そこは学生用のアパートに住むならまだしも、
学費も高くて今の段階では叔母さん達に迷惑と負担をかけてしまうと
思ったので、私は叔母さん達と相談して、別の中学校を選んだ。

結果、私は叔母さんの援助を受けながら、世田谷区内にある
5階建てマンションの3階の部屋で一人暮らしをしながら
近くの第五中学校に通う事になった。通学にはバスを使って10分ぐらい。
部屋は狭いけど、家賃は叔母さん曰く、比較的安いらしいし、
一人暮らしにはちょうどいい。
この部屋ではまず、玄関から上がって正面には一番広いリビングがあって、
玄関のすぐの右手にドアがあってそこはトイレ、
リビングに入ってすぐ左手にキッチンがあって、右手に小さなバスルームの入り口がある。
家具等に関してはいくつか叔母さんの家から最低限のものをもらった。
家事用具などは勿論、布団やふかふかの絨毯、
小さいテーブルや元から私専用に使われていた勉強机などだ。

ただ、残念ながら学生のための一人暮らしの支援制度やそのために
特別整えられた環境はこの第五中学校にはない。
けど、叔母さんの支援もあって安心して暮らせる事になった。
私のたぶん最後になるわがままを聞いてくれた
叔母さん達に感謝しないといけない。


この辺で一人暮らししてる学生は当然、私ぐらいだろう。
衣食住を全て自分でやらなければならないのだから。
でも、家事は叔母さんの家で学んだからどうにでもなった。
忙しい叔母さんの家で小1の頃から少しずつずっと
当たり前のようにやってきた事だから。



私はそんな事を歩きながら振り返っていた。今日が初めて通う事になる中学へ行く日。
バスを降りて5分ほど歩いたとこにその中学校はある。
既に入学手続きの関係で一回訪れてるんだけど、通学ではこれが初めて。



私は校門の前にいた。真新しいセーラー服に身を包み、真新しいバッグを持って。
桜並木が辺りを華やかに彩り、とっさにふいてきた春風が私の長い黒髪を静かになびかせる。
場所は通っていた小学校より少し離れてるけど、
家から近くまでバスで行って歩いて通える場所だった。

私の前にはまだ見慣れない新鮮な空気に包まれた大きな建物がそびえ立っていた。
大きな四角い4階建ての白色の校舎の横には大きなグラウンドが広がっている。
私と同じ学校の制服を着たたくさんの学生達とその保護者が校舎へ歩を進め、
校門を通り、ゾロゾロと中へ入っていく。校門前では
既にこの学校の教職員と思われる大人達が待機し、生徒や保護者を出迎えている。

そう、ここが私が三年間お世話になる中学校だ。
ここに通える事とこの近くで暮らせるように援助してくれる
叔母さんにも改めてちゃんと感謝しないといけない。
ちゃんと勉強して、良い高校に入って、それから・・・・

夢と期待を胸に秘めて、私も校門へと向かっていく。
そう、今この時こそ、私が中学生活のスタートラインを切った瞬間だった。



この時は、まだ新鮮味と楽しさぐらいで、
入ってからどんな事が起こるかなんて、深く考えてもなかったんだ。







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