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 暗い小部屋の光源は前面の大型モニタと壁を流れるソースコードの光のみ。
 2列5段に積み上がった空ハードディスクの上にレオナルド・フィリップの記憶を収めたオリジナルが鎮座する。
 何本ものコードが絡まり合い、電流が行き交う傍らで二人は宅配伝票を書いていた。
 本当は皆が一か所に集まれればいいのだが中々そういう訳にもいかない。レオナルドの元上司や親しかった者、それからアイラにも1台。それでおよそ6〜7台になる。
 書き終わった束を揃えると手持無沙汰になるかと思いきや、リタは次々とキーボードを叩く。
 モニタに現れたのは昨夜見た例のネットワークサイトのようだ。設定外からアクセスしている為か、キメラ薔薇は文字化けして見えなかった。
 画面の右下にはディスクの作業状況が表示されているがまだまだかかりそうだ。暇つぶしと言ってリタは相手を呼び出した。
 程なくして画面に現れたのはハーディルである。今日はチャットではなく単独通信らしい。
 リタは手短に現状を説明しコピー作業中のハードディスク群を指差した。
『中は見たのか』
「少しね。最期のとこだけ」
 どうだったと問われ、思い出したのかリタは口籠ってしまった。代わりに凄まじかったとキースレッカが答える。
「……それで、あの。レオナルドさんの最期のシーンだけ警察に回すことは出来ないでしょうか?」
 それは昨日視聴していた時点で考えていたことだった。
 現在イルザン収監となっている例の男は、イルザンに来るだけあってとんでもない数の余罪があると見られている。けれどその手口は鮮やかで物証が殆ど出てこない。罪状の90%近くは依頼人側を捜査した結果判明したものだと申し送りされている。今回の捕縛原因についても本人が硬く口を閉ざしているので大怪我の理由が不明だったのだ。
 突拍子もない申し出だったらしく、年長者二人は目を剥いた。
「一応うちの管轄に収まりましたけど、今のままでは裁判所も判断し辛くて、ライガーを使うのも見送られるかもしれません。でもレオナルドさんに関してはこうして犯行場面が鮮明に残っている訳ですから、立件が可能になって許可が下りるでしょう。ライガーの使用許可さえ下りて3708号の記憶情報さえ解読できれば、うちが外からやいのやいのとせっつかれることもなくなるんです」
 何の話だと画面から促され、キースレッカは出掛けに聞いたラスマンダラ問題を話した。するとどうしたことか二人は神妙な顔つきになる。
 程なくしてリタが「実は……」と言いかけた時、キースレッカは気配を感じて振り返った。
 複数の人間がこちらにやって来るようだった。
 立ち上がりブースのガラス戸を押し開けて廊下を覗くと、怒鳴るような声が近づいてくる。ここまでくると流石にリタの耳にも届いて「何だろうね」と言いながら同じように顔を出した。
 しかしきょとんとできたのもこの時まで。現れた一行の先頭にいた男を見た途端リタの顔色が変わった。
「リタ!!」
 どこかで見たことがあるような……と考えていると、その男はキースレッカを射殺さんばかりに睨みつけて狭い廊下で怒鳴った。
「誰だその男は!!?」
 男の後ろには先程の白衣の男の他に秘書らしい女性や部下らしい男性が数名従っている。彼らは男の怒号に身を竦ませながら「落ち着いて下さい」と宥めていた。
 リタは一人落ち着いた様子で男の前に進み出る。
「仕事中でしょう? 何やってんのよウィルバー。皆さんにご迷惑でしょ」
「その男は誰だと訊いているんだ!!!!」
「私の知り合いよ。いったい何なの、そんなに怒鳴り散らして」
 ここまでくればキースレッカも気付く。この男は昨日写真で見たリタの夫だ。
 リタの紹介もズバリその通りで、憤死しそうな夫を尻目に淡々とキースレッカに引き合わせた。





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あきゅろす。
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