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「あんたのせいでもうこの店来れないじゃない。どうしてくれんの」
 文句を言いながら2人分の精算を済ませ店員に謝って店を出たところで「待て!」と声がかかった。振り返るまでもなく、さっきのサラリーマンである。
 無視しても良かったが諦めそうもなかったので足を止めた。恥をかかされ彼は顔を真っ赤にして肩を怒らせて立っていた。
「ビアンカさん!その男は一体何です!?」
 隣でビアンカ?と反応するのを無視して、彼女は一層冷めた目をウィルノーに向ける。
「恋人だと言うならまだしもそうではないんでしょう!? いきなり現れて、こんな無礼は無い!」
 尚も言い募ろうとするのをビアンカが再びごめんなさいと言って遮った。
「さっき言ったように、私金髪の男性ってどうにも好きになれないんです。でもそれは私の問題であって、決して貴方が悪い訳じゃない……。本当にごめんなさい」
 更に言うなら青い目もビアンカの趣味に合わない。こちらは単体なら何とも思わないのだが、金髪とセットだと苛立ちが倍増するようだった。
 どちらも本人の自由になることではないので普段は口にしないようにしているのだが……。
 愕然としているウィルノーに更に追い打ちをかけるかのように隣の男が言う。
「それにこいつ1児の母だから。他を当たってくれ」
 向こうの反応を見る事なく、2人は踵を返して歩き出した。
「あんたね。吐くにしてももっとマシな嘘があるでしょ。よりにもよって子持ちだなんて……」
「それよりビアンカって何だよ?」
「名前訊かれたから適当に言っただけよ。って言うかセルファトゥス、何しに来たの?自慢?」
 ビアンカと名乗った女は気だるそうにぐしゃりと髪を掻き回す。
 それを見下ろしながら、だんだんウィテロ化してくるなコイツ、とセルファトゥスは思う。以前なら朝一であろうと化粧くらいしていた筈だが今はそれもない。
 人間、何もかもどうでも良くなると素っぴんで往来を歩けるようになるらしい。
「当然の事実を世に示しただけなのに何で自慢なんかしなきゃなんないんだよ。ただどうしてるかなと思って」
 2人は信号待ちで立ち止まる。
「それ流行ってるの?3週間くらい前にも同じこと言ってハーディルとリタが来たけど」
「へぇ」
「あんたのとこに居たフィリップが死んだって」
 信号が変わる。歩き出しながらセルファトゥスは晴れた空を見上げた。
「……ああ。聞いたよ」
 それが何時、何処で、誰によってなのかも聞いている。更に言うなら誰のお陰でこんなにも早くその死が発覚したのかも。
 雲の切れ間から覗く青空が清々しい。時折何処からか子供の笑い声が聞こえてくる。平日の朝、小さな町の住宅街を2人はゆったりと歩いている。
 憶えているだけに、こうして獲た平穏がやや後ろめたい。隣を進む元同僚はそんなこちらの気分なぞ露知らず、鬱向いていた。
「……そうだミトス、ウィテロとイーサー何処に居るか知らないか? 折角世界一になったのにあいつら何の連絡もして来ないんだよなぁ」
 祝えとでも言うのか。先の大会の結果なら新聞で知っていたがビアンカ──ミトスだって何もしていない。だから来たのか。やっぱり自慢じゃない、とミトスは零した。
「イーサーは兎も角、ウィテロの足取りが全く掴めないんだよ。これは意図的に隠れてるとしか思えん」
「会いたくないんでしょ」
 ミトス自身、最後に会ったのは明け渡した翌年だ。ふらりとやって来て打ち明けられたのは想像だにしない話だった。あの時
「お前にだけは言っとく」
 と言っていたから、余人には知られたくないのだろう。
「……何だよにやにやして」
 指摘され、ミトスは口許を隠した。
「別に」
 この手の話は、男に言ったって信じないに決まってるのだ。

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