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『あんた、堅気には見えないけど何やってる人?』
 物騒な気配とやらを引っ込めた後、3708号が訊いてきた。
 レオナルドは進路を左に折れる。
『今はしがないアルバイトかな?昔の知り合いに頼まれて裏面工作活動中』
『テロリストだ』
『はは、そうかもな、殺人鬼さん』
 数秒、返事が途切れた。
『……殺し屋だよ』
『えっ、そうなの?』
 振り返るとやや垂れ気味の眼の奥が妖しく光っていた。口許は薄っすらと笑み。
『そりゃ悪かった。知り合いの殺人鬼連中と同じ眼をしてたからさ、さっき』
 殺人鬼の知り合いとはまた、一体どんな人生歩んでいればそんな事になるのか。静かに驚くキースレッカを横目に、アイラがとんでもない事を言い出した。
「うちにいたルカやケィティ、リュディー、ザルバなんかは皆殺人鬼だよ。どいつもこいつも捕まりゃあんたのとこにお世話になってたんじゃないかなぁ。ねぇリタ」
「ん〜、まぁそうかな」
 キースレッカは愕然とした。当然皆知っている。リュディーやザルバにはよく遊んでもらった覚えもあった。
「クウインドには最後まで内緒にしてたなぁ。意外に子煩悩だったし」
 あぁそうそうとアイラが応じる。2人の間で顔を蒼くするキースレッカを置き去りに、画面上ではいつの間にか剣呑な雰囲気になっていた。
『……俺と同じ?傷付くなぁ、これでも結構オリジナリティにこだわってやってんだけど』
 2人の足は完全に止まっていた。もう直表通りなのだろう、道幅は格段に広く、街の喧騒も聞こえてくる。
『そうかい。そりゃ重ねて悪かったな。でもま、あんたまだ若いんだしもっと経験積めばそのうち最強の殺し屋になれるんじゃねーか?』
 またしても3708号の眼が黒く輝く。最強ねぇ、と低く笑っていた。
 その視線がどんどん鋭くなって行く。
『……確かに、お兄さん強そうだもんね』
 お兄さんて年じゃないんだけどとレオナルドは笑う。
『でもそうか……、俺、まだ経験不足なのか……』
 突然、映像がぶれた。いや、視界が物凄い速さで動いたのだ。どこからかダンッ、と重そうな音がした。
 リタとキースレッカがぽかんとしている内に、映像は眼まぐるしく入れ替る。腕が、脚が、ギラリと光る眼が、ようやく判別出来たのみだ。同時に風を切る音、肉を打つ音、金属音がごちゃまぜになって聞こえてきた。
「…………闘ってる、の?……」
 試合を見た事なら何度もあったが、これはレオナルドの記憶映像だ。闘っている当人の視界で試合──戦闘を見ている状態だ。非戦闘職だったリタには何が何だかさっぱり分からないこの視覚情報を元に、実際に彼は闘った。
 しかし何故いきなりこんな事になっているのだ。襲ってきたのか?……どうして……。
 画面上にパッと赤いものが散った。それを合図にか2人は距離を取って睨み合う。
 たった1人画面に映る男は右頬から耳までを濡らす鮮血を舌打ちしながら乱暴に拭っていた。彼は他にもあちこち傷を負っている。今の残像のオンパレードの中受けた傷なのだと、リタは悟った。
『……勘弁して欲しいね。あんたもしかしなくてもフルビルディーかよ?』
 そんな相手を前にした経験に乏しいのか、3708号は一気に警戒を強めたようだった。しかし少しの間を置いてニヤリと笑う。
『考えようによってはそんなお兄さんを殺せば俺の経験値は飛躍的に上がるのかな』
 リタが見る限り3708号の口は微かに動いたのみだが、声はハッキリと聞こえる。TOE-X-390の集音力の技だろう。
『フ……』
 吐息なのか、レオナルドの声。
「……義体を替えても悪い癖は直らなかったようだな」
 アイラの呟きでリタは彼が笑ったのだと知る。強い相手と闘いたいという欲求が、結果とうとう自身を滅ぼしたのは、この後なのだ。

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