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 サンテ政府には珍しく、昨日の春宮事件については全域で箝口令が敷かれた。
 実はフィーアスもあの現場を直接見ていた一人だった。
 春宮の高い屋根まで人が吊し上げられている光景が瞼に焼き付いて、昨夜はなかなか眠れなかった程だ。
 眠い目を擦って下に降りると、ワゼスリータが既に朝食の用意を済ませていた。
「おはようございます」
 その食卓で当然のように食事をしている男性二人の姿にフィーアスは目を丸くした。世界王北殿とそこの軍総司令が向かい合わせで座っている。
 ディレルは隣に座るロゼヴァーマルビットの食事の面倒まで見ていた。
「……どうしたんですか、お二人とも……」
 眠さも相まって頭が回らない。ウインナーを齧りながらゾイドが言い訳をする。
「いや、俺は便乗して……。ところで、俺としては大歓迎なんですが、着替えていらしてはどうですか?」
 言われて自らを省みれば寝巻のままだ。フィーアスは慌てて引っ込み、身支度を整えて戻った。恥ずかしさで顔が火照るのを感じながらゾイドの隣に座る。
「あの、ディレルさん、私が……」
 息子の面倒を見ると申し出たが北殿には好きでやっているからと笑って躱された。
 長女がフィーアスの前に食事を置く。それに手を付け始めるとディレルはワゼスリータを褒めた。
「ワージィは料理上手だなあ。いいお嫁さんになれるよ」
 ワゼスリータは小学生である。まだ早いですよと笑い合っていると、ゾイドがこれを咎めた。顎で示され娘を振り返ると、顔は笑っているのだが俯き気味である。
「どうしたの?」
「…………んーん、何でもない」
 そう言って台所へ引っ込んでしまった。
「ねえ、お父さんは? まだ仕事?」
 次女の歯を磨いていると返答が返って来た。そう言うワゼスリータも登校のため既に食事は済ませているのだ。
「――それで、今日は何か……?」
 改めて尋ねると、ディレルは朝からコーザと出掛けるのだという。ゾイドはその見送りに来たらしい。
「…………サンテに、ですか?」
 世界王が二人連れだって何の用か。脳裏に昨日の事件が掠めた。
 捕らわれていた男性の身柄は一時的に外務庁が預かっている。その事実に加え、男の頭上に流れていた「不審者」という言葉がゴルデワの侵攻ではないかと推測を呼んで宮殿全体を浮足立たせていたのだ。
「本当にお前らだけで大丈夫かよ」
「大丈夫だって。パッと行ってパパッとやってさっさと帰って来るよ。でなきゃイゼルにどやされる」
 ディレルは幾分青い顔で水を飲む。その言葉を拾ったロゼヴァーマルビットが口の周りをべっとり汚しながら「どや?」と質問をした。食卓に身を乗り出したゾイドがそれに回答する。
「すっごく怒られてお尻ぺんぺんされんだよ。当然おやつもナシ」
「えーーー!」
 子供特有の甲高い声がダイニングに響く。
 息子にはとても恐ろしいことと認識されたようだったが、まさか世界王がおやつの時間など設けてはいまい。それはそれで微笑ましい光景だが、西方を知っている分フィーアスには上手く想像できなかった。
「うるさいぞ、何騒いでいる」
 ゼノズグレイドと共に戻ってきたコーザを出迎えたのは、ゾイドのにやけ顔だった。
「お前が子供の歯を磨いてやるなんて微笑ましいって話だよ」
 すると真っ先に反応を示したのはゼノズグレイドだった。違うの! と怒った口調で叫ぶ。
「じぶんではみがきしたもん! パパはかんとくしてたの!」
「ゼット、監督なんて難しい言葉知ってるのか、すごいな」
 ディレルの対応も生温い。
 ゼノズグレイドとしては全部一人でやりたいのだろうが、最近買ったイチゴ味の歯磨き粉がお気に入で放っておくといつまでも口に含んでいる。下手すると呑みこんでしまうので誰か付いて指図してやらないと駄目なのだ。
 日常的な朝の風景だった。





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あきゅろす。
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