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 ぱらり、と書面を捲る音が静寂の車内に響く。
 落ちる夕日が隣接する車体に跳ね返ってキースレッカの目を掠める。眩しさに目を眇めて顔を逸らせた。
 運転席では車の主が書面に目を走らせている。
 冷気を伴うような強い怒気を感じるが、常日頃から狂気憎悪の中で仕事をしているキースレッカにはそよ風のようなものだった。
 ここ数日、キースレッカは西殿邸を訪問するようになっていた。自分の意志ではない、成り行きによる次第である。
 ランティスは弟子の特訓――日中は暇な筈だが――で忙しいと言い、アリシュアは西殿との接触をひどく嫌って連絡役を押し付けられたのだ。
 西殿邸では幼稚園に上がる前の末っ子の遊び相手をするばかり。たまに西殿が顔を出して少し話をする程度だ。
 遊び場所は家の奥、書斎を抜けた先と決まっていた。
 書斎の奥にあれだけの面積を確保しているなんて、随分大きな屋敷である。今度外周を周ってみようと思う。
 そしてついに昨日西殿本人から手渡されたのが、今アリシュアが睨み据えているファイルである。
 中身は西殿邸へ行くきっかけとなった不法侵入者に関する報告書だ。
 渡してほしいと頼まれ、定時は聞いていたのでアリシュアの職場の駐車場で出待ちしたのだ。
 三十分近く読み込んでいたアリシュアは途中でぱたりとファイルを閉じた。後部座席にファイルを投げ置くとエンジンをかけて発進する。
「あーお腹すいた。キース、何食べようか?」
「…………いいんですか?」
 後ろのファイルを読み切らなくていいのかと問うと「あとで読むから」と答えが返る。
「イライラしてくるから、今はいい」
 とにかく腹を満たしたいと言う訳だ。
「この間みたいなのは勘弁ですからね」
 酔っぱらいの面倒は見きれないと釘を刺すとアリシュアはぐっと詰まった。
 そもそも車で飲み屋に行って、帰りはどうするというのか。アリシュアのような立場の者が飲酒運転で捕まるのはまずい。
 と言う訳で車は繁華街に背を向けスーパーへ立ち寄った。食材と酒をしこたま買い込みアリシュアのマンションへ向かう。
 この部屋に訪れたのはこれで三度目だ。4LDKの部屋は一人暮らしには広すぎると思えてならないが、もっと凄い部屋をいくつも見て来たので驚く感覚も随分薄れてしまっていた。
 しかし台所に立ったアリシュアがものの数十分でちゃんとした食事を出してきたのには驚いた。風呂から上がったキースレッカはテーブルの上に並べられた手料理に絶句し、その味に頬が熱くなる。
 これが家庭の味というのだろうか。キースレッカの記憶の中ではこんなことをする人ではなかったのでひどく意外だった。
「特訓させられたからね」
 食事を終えても二人はまだ飲み続けた。
 アリシュアの許可が降りたのでキースレッカはグラス片手に部屋を見て回ることにした。初めて来たときは精神的にそれどころではなく、前回は二日酔いの介助に忙しかったのだ。
 四つの部屋はそれぞれ書斎、寝室、客室、物置となっていた。物置など名前だけで殆んど空である。
 キースレッカは書斎で不思議なものを見つけた。黒い大きな箱型の機械である。
「通信機?」
 このサイズで名乗っていい名前ではない。オールドテクノロジーもいいところだ。
「動くんですか?」
 そんな超骨董品が何故こんなところに、という疑問も織り交ぜて後ろに尋ねると、アリシュアはグラスを呷って空にした。
「当たり前でしょ。今じゃもう新型でこそないだろうけど、モデルとしては新しい方なんだからね」
「えっ!?」
 思わず二度見したそれはやはり大きく、小型冷蔵庫だと言われた方がまだ納得する。つうしんき?と再度確認してしまった。
 アリシュアもキースレッカの驚愕を理解していたから笑いながら「そうそう」と頷いた。
「繋げてみる?」
 アリシュアはにやりと笑う。





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あきゅろす。
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