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 第453代世界王――五大王填黄殿は魔術師である。
 その実力は、全国の魔術師たちが鎬を削る魔導大会でぶっちぎり優勝を果たす程だ。
 因みにこの時の取材インタビューでは「私の実力をようやく世界に知らしめることが出来ました」と余裕の笑みで答えている。
 当時紅隆は偶然にもこの報道を見ており、他の参加者に深く同情したものだった。
 五大王時代、填黄軍のおよそ7%を魔術師系の者が締めた。さらに彼と古い付き合いであった歳青殿も魔術師の有用性を理解していたためか自軍に術者を多く所有しており、それは次の代である現四大王政権にほぼそのまま引き継がれている。
 捕らえた六人からの情報収集役に呼び出したのもそんな一人だった。サンテに不法入国したとだけ説明し、ケイキは背後関係を洗わせた。
 しかしどうもこの連中は下っ端だったようで確信的な情報は殆ど持っていなかった。モスコドライブの受け渡しも間に何人も経由している。
 侵入場所の特定は出来たので兵を派遣して確保させたが、黒幕は分からず仕舞いである。
 しかしこの件ではっきりしたことが一つ。
 五大王政権当時、サンテとの行き来を始めるようになって各地の次元口の再調査が秘かに行われ、この調査で新たに多くの次元口が発見された。
 だが、それは全てではなかった。
 調査官の中にはソルフのデータバンクに登録せず、次元口の位置情報を独自で管理保管していた者がいたのだ。
 しかも次元口情報の横領の筆頭が歳青殿だろうというのだから話にならない。
 歳青殿は自分を棚に上げて横領を取り締まったらしいが、それでも取り零しがあったのだ。そして恐らくまだある。
 今回の件で入手した二ヶ所の位置情報の処置は保留状態だ。
 今の情勢下で新たにジオの施設を建てるのは危険すぎたし、荒野のど真ん中と樹海の中では建てる名目も無いのだ。
 どれもこれも情報が断片的過ぎて繋がらない。そもそも同種の物なのかも知れず、頭痛がしそうだった。
 ヴィンセントが出ているのをいいことに紅隆は執務室を抜け出した。時刻は既に深夜である。
 いつものように子供たちの部屋を順繰り周って蹴飛ばされた布団を掛けなおす。
「………………どうしてお前はいつもそうなんだ」
 子供たちのベッドは大人が寝ても十分な大きさがある。幼稚園入学前の幼児には大きすぎるくらいだが、ロゼヴァーマルビットはその大きさをフルに生かして惰眠を貪っていた。
 寝るときは普通に寝ている筈なのに、コーザが部屋を覗いた時には180度回転してベッドの端から小さな足が飛び出していた。見回りに来れない日などは必ずベッドから落ちるため、ベッド周りにはクッション性の高いマットが敷き詰められているくらいだ。
 こうして夜中に直しても朝には似たような状態に戻っていることもあるようだったが、放っておいて風邪をひかせるのも憚られた。
 主寝室を開けると電気が煌々と点いていた。
 何事かと思えば、フィーアスが前室のローテーブルに突っ伏して寝ている。テーブルの上にはアルバムやら写真やらが大量に散らばっており、整理をしていたのだと分かった。
 写真は主にケイキを筆頭にした子守衆やAIが撮る。AIに至ってはワゼスリータが生まれる前から成長記録と称する映像撮影を現在も続けていた。
 フィーアスをベッドまで運び入れるが、彼女は起きる気配もない。一度寝入ると余程のことがない限りフィーアスは起きない。子供たちが乳児の頃はそのせいでエテルナがかなり大変な思いをしたものだ。
 ベッドの淵に腰掛け、柔らかい蒼い髪を撫でる。はっと気付いた時には唇の表皮同士が触れ合っており、コーザは慌てて身を起こした。
 舌打ちして溜息を漏らす。
 こんなふうに絆され続けてもう何十年。
 一刻も早く、手放さなければならないのに。



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あきゅろす。
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