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 このところ各世界王の業務は軒並み増加している。
 勿論公国側の極地二分化の内部対立からの騒動が原因だ。
 直接対応している南方はもとより、その南方から強制的に振り分けられた仕事が圧し掛かっているのだ。
 世界国家管理政府にとって、公国――皇帝というものがいかに手強い相手かが分かるというものだ。
 南殿が二帝及び今回旗頭に掲げられている貴族数名を呪い殺すのが先か、武力開戦するのが先か、大きな問題だった。
 各地メディアもこの情勢の悪化をハラハラしながら見守っている。
 北方や西方ではこの件を隠れ蓑にした騒動が頭痛の種になっていた。
「早かったな」
 堆く積まれた対応書類の山の向こうから紅隆がケイキを出迎える。手だけがにゅっと伸びてきて報告書を受け取った。
 ランティス・カーマの来襲から半日が経過していた。
 西方の軍総司令でありながら全く事情を知らされていなかったケイキは城に引っ込んだとたん紅隆を叱り飛ばした。しかもケイキを飛び越えて八班のテオルディには一部情報が降りていたと知り、憤ろしいやら情けないやらで眩暈までする始末。
 先程の会談でこれが周知させられる情報ではないのは分かったが、せめて自分には全て開示してほしいと訴えた。
 情報収集や調停、小競り合いの収拾などで軍も忙しいが、もとより世界王軍は担当の世界王の身辺警護が最優先事項である。西軍もケイキを筆頭に最低でも計十班は詰めている。
 軍属であっても事務能力、政治能力の高い者は既に駆り出されているが、総司令官ともなるとそんな召集は掛からない。
 つまりどういう事かと言えば、手が空いているのである。
 それをいいことにプライベートルームに入り浸り子供たちと遊んでいた程だ。
「……いや、チビたちの相手がいなくなっても困るし……」
 紅隆のそんな言い訳も粉砕し、ケイキは回収したバン及び内部の調査を買って出た。
 バンの中には縛り上げられた男が六人、猿轡を噛まされて転がっていた。彼らがゴルデワ人であるのを確認するとケイキは問答無用で情報解析部に送った。
 月陰城の情報解析部には三十を超えるライガーを所有しており、そこに放り込ませる。
 車内の調査は既にカーマから得た情報と整合済み。パソコンも早々にロックを解除し、現在解析中である。
 流石に生体データだけあって解析に時間を要したのだが、紅隆はもっとかかると踏んでいたようだ。
 問題の六人から抽出した記憶情報のうちサンテへの密入国に関する部分だけ記述したが、他の記憶域も現在詳細解析中である。それというのも車内をどれだけ探してもモスコドライブが発見されなかったのだ。
 記憶を解析したところこの六人は自分たちでドライブを起動させたにもかかわらず、ドライブ本体はゴルデワ側に置いてきているのだ。まさかサンテに永住する気ではないだろう。
 解析したのは前後十日だが、この間互い以外の人間は出てこなかった。つまりそれよりも以前に計画・決定していたのだ。
 ライガーは本来、事件性のある死体の脳から死亡原因を探る目的で開発されたものである。記憶を読み取るには脳の鮮度がものをいう。ミイラ化や屍蝋化していては解析は不可能だ。
 しかし鮮度が良ければ良いというものではない。
 今回のように対象が生体だと死亡脳の三十倍は見えてしまう。こうなると抽出された記憶画像の要不要の選別が大変なのだ。ある程度までは機械が選別してくれるが、何でもない日常の中にも重要な情報が紛れていることも多い。そういう場合はどうしても人が対応しなければならなかった。
 確かにライガーを使えば決定的な証拠情報が確保される。しかし元填黄方の紅隆、ケイキなどからすればこれは時間の無駄以外の何物でもなく、記憶情報の解析は続行のまま、早々に操作方法を切り替えた。





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