[携帯モード] [URL送信]
88



 ソファを勧めたフィーアスに短く礼を言った青年は向かいに同じように腰を下ろしたコーザとフィーアスを見比べる。
「? 何か?」
「い、いえ、すいません」
「お食事もまだなのではありませんか? 直ぐに用意できますが……」
「いえ、本当に……」
 恐縮したりの彼にコーザも食事を勧めた。
「あの様子じゃ暫くかかる。直ぐ帰るつもりだったなら食べて来た訳じゃないんだろう。俺に遠慮しているなら別に構わないぞ」
 青年は困り果てたようにコーザを見る。
「いえ、あの……、こちらの奥方に迷惑をかけるなときつく言われてますし……」
「あの人に?」
「はあ」
「自分のことを棚に上げてよく言う」
「…………」
 結局コーザが押し切った。ローテーブルの上に二人分の食事を並べてようやく青年を紹介される。
「あでるんてぃすら……変わったお名前ですね」
「昔、彼の父親がさる国主から賜った姓だそうですよ。なので現在この姓を名乗っているのはこのキースレッカだけです」
 へえ、と相槌を打ちながらフィーアスはやはりという思いを強くした。
 サンテで国主にあたるのは神ただ一人――現在は二人だが――だ。神に対して「さる国主」などという言い方はしない。つまり、このアデルンティスラ青年はゴルデワ人だ。おそらくあのカーマ氏も。
 洗い物をしながらこれはいったいどういう事だろうかと考える。
 宮殿奥にある大門が開いたなどという話は聞いていない。他に考えられるのはコーザの空間術だ。他にもビャクヤやエテルナも空間術を使えたが、彼らだとしても結局主に報告するだろう。それならあの二人がいることをコーザが知らない筈がない。
 ワゼスリータは部屋に戻ったが、下の子たちは父の隣に陣取りアデルンティスラ青年に色々話しかけていた。
 好奇心だけで行動できるのは子供の特権だろう。
「東殿の息子さんもですか? じゃあ俺先輩だな」
「どういう所なんだ?」
「ど田舎ですから敷地や校舎、寮の部屋なんかも広いですね。でも性格上、出入り制限が厳しいし場所によっては電磁シールドも張ってあって監獄みたいなところですよ。夏になると青い芝に黒壁がまた不気味なんです」
 聞いていると笑いながらする話なのかと首を傾げてしまう。
 二人の食事が終わる頃、再び奥へ行った三人が戻ってきた。
「キース、何食ってんだ」
「いやあ」
 三人にも食事を勧めるとザガートだけは「早く戻るようヴォイスに言われてますから」と仕事に戻って行った。ケイキとカーマはコーザらと席を替わって夕食に手を付け始める。
「申し訳ありません奥さん、お手数をおかけして」
 カーマは綺麗に平らげた。
 別のソファに座ってアデルンティスラ青年と歓談の続きをしていたコーザは片付けようとやってきたフィーアスを呼んだ。
「今夜のことは内密に願います――お前たちもだ」
 難しげな話になって来たのを察したのか、子供たちは既にケイキの元に退避して彼の足元に群がっていた。
 ゼノズグレイドが「ないみつって何?」とケイキに尋ねる。
「内緒ってことだ。…………大変だなぁお前たち、今日はいっぱいナイショがあって」
 ケイキが言う通り、子供たちは難しい顔をして両手で口を覆っていた。「何?」と問い詰めかけて口を噤む。フィーアス自身、人のことを言えなかったのだ。
 夫と共に客人を見送りに門前まで行くと彼らが来た時には有った筈のバンがなくなっていた。軽乗用車はそのまま路上駐車されており、二人は丁寧に挨拶をして車に乗り込んで去っていく。
「どういう方たちだったんですか?」
 尋ねるとコーザは視線だけでフィーアスを見下ろした。
「先程、内密にとお願いしたばかりですよ。好奇心を満たすために余計なことを知れば後で辛くなるのは貴女自身ですが……それでも聞きますか?」
 口を閉ざさざるを得なかった。





[*前へ][次へ#]

28/30ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!