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 ディケン市にあるシーラー東通緑地公園は複数の雑木林を有し、遊歩道を設け森林浴が出来るようになっている。他にも敷地内には芝生の敷き詰められた広場があり、小さいながら池があり、他にも野外ステージやテニスコート、一角には複数の売店やレストランを有した休憩所が整えられている。
 今日のようによく晴れた土曜などには家族連れがピクニックしたりと微笑ましい光景がそこかしこで見られる。
 けれどそんな憩いの場も雑木林の奥へと進むと今日ばかりは寒々しいまでに閑散としていた。
 それまで騒がしい程だった野鳥の声がいつの間にか途絶えている。それもその筈、軽やかに歌い華麗に空を舞うはずの鳥たちはどうしたことか地面のあちらこちらに落ちているのである。鳥だけではない。林に棲んでいる小動物もそれは同様で、ぴくりともしない。
 死んだように静まる林のさらに奥へ進むうち微かに歌声が聞こえてくる。
 柔らかな調べは風に乗って林を巡り、生き物を奥へ寄せ付けない。
 歌声の発生源は備え付けのベンチに腰掛け気持ちよさそうに日光浴をしていた。
 そこは三方を公園の林に囲まれ、唯一開いた一方も林を囲む芝の十数メートル先には公園の敷地を囲むフェンスがありその向こうには自然林が広がっていた。
 公園設計者はおそらくここを子供たちの秘密基地になるようにと考えたのかもしれないが、如何せん林の奥の奥。一つだけあるベンチが寂しそうに人の到来を待つばかりの場になっていた。
 加えて今は芝の上に三人もの男が転がり、その傍らには白いバンが口を開けごそごそと物音を立てている。歌うランティスの足元には男たちから没収した物騒な品々が新聞紙の上に広げられ、バンの前方にはメタルブルーの車が乗りつけてあった。
 その車の主は不審車の中をあらかた物色し終えたのかようやく降りてきてドアを閉める。いつも流している髪は適当にまとめ上げられ、その手は手術用にも似た薄いゴム手袋が装着されていた。
 アリシュアは車内から発見した大学ノートを捲りながら没収品の前で立ち止まる。
 各種ナイフ、アウトドア用品、食糧、パソコン、小型発電機。銃は実弾式、エネルギー式それぞれ十丁ずつと対応の弾倉。さらに手榴弾が三十。四つあったアタッシュケースの中にはサンテ紙幣がぎっしり詰まっているものもあった。
 紙幣と車以外は全てゴルデワ製品である。ノートに書かれているのもゴルデワ語だった。
 アリシュアの所属する外務庁は先代の世界王来襲以降ゴルデワ語の習得に力を入れてきた。
 外務庁長官自ら率いる第一執務局以下、第二、第三執務局員、外局長は全員習得済みだ。他にもヴァルセイア以下内閣府の上層部と厚生労働省長官マイデル、そして当然ながらフィーアス・ロブリーもこれを修めている。
 ノートの中身はこの近辺の周辺調査の記録のようだった。地形、地質、人口、産業その他もろもろ細かく書かれているが、銃器とセットで置かれてるような物騒な記述は見当たらない。
 パソコンはロックが掛かっていて入れなかった。
 ふいに気配がして振り返ると、ベンチに座ったままのランティスが片足をこちらに伸ばしていた。「おい」と口が動く。
「え?」言いながら耳栓を外す。「何?」
 この耳栓と手袋はここへ来る前にホームセンターに寄って買ってきたものだ。
 手袋は指紋を付けないため、耳栓はランティス対策である。
「お前これ全部押収する気なのか」
 ランティスがそう言うのは転がっている男たちには最低でもあと二人仲間がいるからである。その二人がこの場を離れるのをランティスは見ている。
 そしてアリシュア個人、更に例え警察機構や外務庁を巻き込んだとしてもこれらの物品は手に余るのが分かっているからだ。
 アリシュアは言葉の内実を理解して考え込んだ。





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