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 レイチェル・グレンは男嫌いで有名である。
 彼女の所属する軍部は職業柄どうしても女性の比率が低い。当然良い職場環境とは言い難く、笑うととても綺麗な人なのだが、その笑顔を見ることは少ない。
 そんな職場に引き入れたのがコーザだったそうである。
 4大王政権が発足するとレイチェルは西軍の所属となり序列四位に任じられた。つまりそれは世界王執務区画への出入りに何の支障もないということだ。
 フィーアスが嫁いできたとき、ケイキやザインマーの次に挨拶に来たのがこのレイチェルである。
「この男の何がいいのか、私にはさっぱり理解できません」
 紅隆に限らずそうだろうと彼女の副官が後ろでぼやくのも無視してコーザ・ベースニックとはどのような男かということを一時間近く語ったが、それは間違いなく彼女の主観なのだろう。
 コーザが女性に対して態度が一貫しているようにレイチェルもまた同様だった。
 彼女の中で男性の地位は限りなく低い。
 レイチェルの副官(男性)曰く、女子供を頂点に、人、女の屑、男と厳然としたヒエラルキーが存在しており彼女の各人への態度はそれに基づくものだという。
 因みに「人」というのは人畜無害な男性のことを指すらしい。この括りに入っている人物たちと「男」にカテゴライズされている人たちとの違いがフィーアスにはよく分からない。
 そしてコーザはというと「男」に分類されており、ヒエラルキーに則ったレイチェルの対応は非常に冷たいものだった。
 フィーアスに対しては色々と気にかけてくれ、手を貸してくれるレイチェルもそこにコーザが現れると表情が一変する。
 笑顔は掻き消え声も低くなり、視線は鋭く眉間には常に小皺が寄のだ。
 更にコーザとレイチェルは口喧嘩が絶えない。皮肉が挨拶代わりの二人だ。時にはカチンとくることもありそういう時は誰が止めに入っても一向に聞かず、小一時間は盛大に罵り合い揃ってヴィンセントに説教される事が多々あった。
 これに対しレダなどは「通常運転ですよ」と笑う。
 そんな関係の二人である。顔を合わせているのを見ても「物を投げ合うと危ないな」と思うくらいでアリシュアに対する不安と同種のものを感じることはまず無い。
 素直にそう言うとヴィンセントはそうでしょうと微笑んだ。
「キャネザ女史に対しても、それと同じだと思えばよろしい」
「え」
「寧ろ女史との関係の方が希薄ですよ。レイチェルとはお互いよく知っているから喧嘩もできるが、女史については顔見知りに毛が生えた程度だと自分で言っていましたからね」
 フィーアスならその程度の人物とあんなに接近することなど考えれない。そう指摘しても「厄介な事情があるんですよ」と言うだけでヴィンセントは詳しく語ろうとはしなかった。
「…………いつか、話して下さいますか?」
 ここまでが話せる範囲の限界ならこれ以上フィーアスが粘っても徒労にしかなるまい。相変わらず不安は拭えなかったが退くしかなかった。
「勿論ですよ。ただし、その時はサンテ政府が大わらわになるかもしれませんがね」
「…………」
 ヴィンセントは笑っているがその台詞はとても笑えるものではない。
 詳しく訊いてもいいのだろうかと思い悩んでいると部屋の入り口からひょこりとゼノズグレイドが顔を出した。
「ママみぃーけ!」
 室内の微妙な空気にも気付かずフィーアスに駆け寄ってくる。何か話そうとしていたようだ朝から元気だなと笑うヴィンセントの声に振り返った。
「? さっきお昼ご飯食べたよ?」
 立ち上がったヴィンセントはテーブルを周ってその小さな耳を両手で塞ぐ。
「そのうちマクベスが来たら何事も無かったようにいつも通り迎えてやって下さい」
 ぎくりとしたが西殿側近はフィーアスの動揺に目もくれず子供の頭を撫でて去って行った。


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