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 双方の予定を擦り合せた結果、面会は二日後の昼と決まった。
 この二日間、イリッシュの浮かれ具合は目に余る程だった。話を聞いたエレンが彼氏がいるでしょうと窘めても聞いていない。
「イリッシュ、本当にいいのね。今ならまだ間に合うけど」
 当日の午前中、最終確認をするアリシュアの心配を余所に受話器の向こうでイリッシュは興奮気味だ。
「言っておくけど、馬車馬のようにこき使うわよ? 安請け合いだったって後悔したって遅いんだからね?」
「大丈夫よ。まっかせなさぁい!」
 この様子では全く理解していないだろう。溜息を零しながら受話器を下ろす。
 第一執務局の壁掛け時計を確認し、手元の資料に目を落とす。数日前にローナンが寄越した報告書だ。
「先輩……あの、すいません。……ちょっと……」
 その気弱な声に顔を上げるとファレスが横に立っている。
「ん?」
「あの……」
 結局部下を叱りながら尻拭いをして午前中が埋まってしまった。
 正面入り口まで迎えに出ると既に二人は待っていた。キースレッカが不満を漏らしたが喋らなくていいようフォローするからと言い含める。
「ちゃんと復習してあるんだから大丈夫だよ」
 それでもキースレッカは不安そうだ。
「あ、そういえば昨日知らない番号から電話かかってきてましたよ」
 渡された端末を取り出して見せるので出てないだろうなと質す。キースレッカはまさかと首を振ったが「出ちゃえばよかったのに」と無責任にランティスは笑った。
 二人は既に食堂で待っていた。
 当初はイリッシュだけがランティスらに会う算段をしていたが、話を聞いた彼女の恋人が是非同席させてくれと言い出した。手間も省けるし何よりアリシュアにとって財務省に直通パイプを通す事が目的だったので、ランティス本人の意思などそっちのけで二つ返事で了承したのだ。
 どういう訳か男はスーツを着ており、その緊張具合が何やら会社の採用面接のように見えてしまう。双方簡単に自己紹介を済ませ、ウェイターに注文を出す。これでアリシュアの仕事は完了だ。
 途中イリッシュがこっそり親指を立てて見せた。よくやったという事らしい。どうやらランティスが以前一度会っただけの彼女を覚えていたこととキースレッカの顔がお気に召したようだ。
 食事が来るまでの間、男が弟子にしてくれと切り出し、ランティスは二つ返事で了承したので面会目的は早々に消化されてしまった。
「どうせ暇だし」
 その声はどこか寂しげで、亡くした恋人のことを考えているのだろうと分かった。
「俺は厳しいぞ?」
「はい! 宜しくお願いします!!」
 恋人がランティスに気を取られている隙にイリッシュは初対面の青年に食い付いた。年齢、職業、恋人の有無と質問攻めだ。キースレッカは言葉少なに答えながらちらちらとアリシュアに援助要請の視線を送る。可愛いなと思いながら見ていたが出番らしい。
「イリッシュ、そんなに詰め寄らないで上げて。この子人見知りなの」
 質問は切り上げたものの彼女の興味の矛先はアリシュアに向けられた。
 要約するとお前の周りは何故そうもイケメンばかりなのか、という事らしい。だから……、とアリシュアはこめかみを揉み左隣の歌狂いを指差した。
「コレのどのへんがイケメンなのか、私にはさっぱり理解できない」ランティスが不服そうな顔を向けたがアリシュアは見ておらず、右手の青年の頭を撫でる。「この子は可愛いとは思うけど……何せ生まれる前から知ってるからなあ」
 イリッシュが更に情報を聞き出そうとしたところ、それぞれ料理がやって来た。湯気を立てるそれに舌鼓を打って平らげると一同は早々に解散した。
 内容はともかく、ペースに余裕のあるアリシュアとは違いイリッシュは多忙だ。男3人に挨拶をし、財務省に駆け戻って行った。





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