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 外務庁内におけるジョイド・ローナンの身分は外局の上級特務官となっている。
 特務官とは文字通り特別業務に携わる者で、仕事内容は完全極秘。一定条件下ではその権限は外務庁長官であるコルドをも凌ぐものになる。
 勿論、これは完全なる嘘八百だ。
 3ヶ月前、何か適当な身分を用意してくれと言われ、コルドと外局長が相談の上で渋々用意した身分だった。
 用意したのは、デレインの処遇を巡る問題が内閣府で通りかけていた法の改正案に元老院が口を出した後の事だ。訳の分からない世界王の部下に議事堂内を徘徊されるより、コルドの管理の下、紅隆本人に視察してもらった方が幾らもマシだと判断したのだ。
 外務庁として、ゴルデワ側と綿密な意思の疎通は必要だったし、コルド自身も紅隆に慣れておく良い機会だと思ったのだ。
 そのローナンは、キャネザと接触してからというもの彼女を放さなくなった。出向中の自分の補佐官に任じてくれと無茶を言う。
 彼用にと一室を与え、キャネザを付けるのは1時間と区切り監視のためにタインを同席させたが、二人とも碌に会話もなく黙々と自分の仕事をしているだけだという。
 そのくせ昼になれば二人で消え、戻ってくるとローナンは必ずコルドに面会する。
 雑談だったり仕事の話だったりとまちまちだが、30分程で彼は腰を上げる。
 そういうことが大体週に2回あり、その日はキャネザの機嫌が悪い。
 空気が重苦しくピリピリしているのだ。しかも悪いことに一見それが分からないので、ファレスなどいつもの調子でキャネザに泣き付いたりしていて端で見ていてハラハラしたものだ。
 そんなことが1ヶ月程続いたろうか。
 今月の3日に、それは唐突に止んだ。
 いつも通り二人で昼に出た筈が、ローナンが一人で戻ってきたのだ。それも髪を湿らせ白いシャツに盛大に染みを作っており、キャネザがまだ戻っていないのを聞くと日を置いて改めると言い残して帰って行った。
 戻ってきたキャネザも様子がおかしく、酷く化粧が崩れており何かあったのは一目瞭然だった。
 化粧を直したキャネザを呼びつけ事情を聞いても黙っているばかりで要領を得ない。後になって食堂での一件を知り再度問うてもキャネザは口を開かなかった。
 4日の朝には用事が出来たので仕事が終わったら帰ると宣言し、普段1日かける仕事を昼前には綺麗に片付け何事もない顔で帰宅したのだ。流石にこれには他の技官から盛大に文句が出たが、相変わらず他の者より多い仕事を完璧に仕上げた結果を見せ付けられてはその声もただのやっかみにしか聞こえない。
 次の日からはこれまで同様に定時で上がったが、4日の凄まじいまでの書類捌きを目にした後ではそれはまるでままごとで、そのままごとにすら届かないと他の者達の士気はがくんと落ちた。
 彼らを預かる者としてこれは由々しき事態だった。やはりキャネザはもっと上へ行くべきなのだ。
 本人に言っても埒が明かないのは先刻承知である。なので先に内閣府にそれとなく打診してみると、思いがけず拒絶の返答があった。優秀な人材を求めているのはどこも同じ筈であるし、ゴルデワ側から圧力を掛けられているのはコルドも良く知っている。
 しかもその打診の電話口にヴァルセイアが直接出たのにも驚いた。
「そんなに優秀なら貴方のところで使ってればいいでしょう」
 密かにやらせていたキャネザの内偵も芳しくなく、他に打つ手はと考えているときに目にしたのが、新米技官による定期業務試験の勉強会だった。
 試験に参加してみたもののやはりと言うべきか、試験結果が発表される頃になってもキャネザの息子からの連絡は無い。コルドは進退窮まってしまった。
 その客人は、そんな頃に現れた。


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