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 その後、時間さえ合えば二人は昼食を一緒に摂るようになった。
 言えない事も多々あるので中々確信付いた流れにはならなかったが、フィーアスはアリシュアの意を知ったし、カインは事態を理解した。
 けれどもアリシュアにその気が無いから安心とはならない。全てはコーザの心一つなのに変わりはなく、気持ちは晴れなかった。
 月に一度の一般開放日を無事にやり過ごしたある日のこと、フィーアスは遂に決定的な現場を目撃してしまう。
 食堂の一角で、変装中の夫とアリシュアが向かい合って食事をしていたのだ。少し離れた席に着いて二人を観察していたが、これがまた楽しそうな様子だ。コーザと二人っきりの食事などついぞしたことのないフィーアスは碌に食事も喉を通らぬまま仕事に戻り、身が入っていないとマイデルに叱責されたのだ。
 また別の日には同じ現場にカインと共に出くわした。
「……………………」
 流石にどうコメントして良いのか分からないようで小さく「すみません」と呟かれたが、謝られる方が逆に切なく、不安は沈滞するばかりだった。
 更に別の日もカインと二人で様子を窺っていると、フィーアスらのテーブルに乱入してきた者があった。
「カイン君、あれ一体どういうことなの?」
 イリッシュとエレンだった。フィーアスとも一応の面識はあり、二人は断って同席した。
 相手の男がフィーアスの夫の世界王であることは伏せて説明すると、二人は納得して頷く。
「最近付き合い悪かったのはコレね」
「ていうか、何でアリシュアばっかりイケメンが寄って来るのよ。理不尽だわ」
「あんた彼氏いるでしょ」
「それとこれとは話が別なの! エレンだっているじゃないの」
「あたしはあんたみたいな不純な目で見てないからいいのよ」
 二人で食事をしている現場に遭遇したときは衝撃的だったものの、何度か観察していると本当にただ同じテーブルについているだけでだった。話の内容までは聞き取れないが、話しかけているのは主に男の方で、アリシュアは憮然とした表情を崩さない。先に彼女にその気がないのを聞いたからなのか、本当に嫌々付き合っているように見える。
 今も、顔に伸ばされた手を叩き落したアリシュアはついでに足も蹴ったらしい。ガタンと大きな音がして男は痛がる素振りをする。
「……す……すいません」
「いえ、こちらこそ……」
 エレンらを気にして小声で謝りあった。
 それからというもの、仕事が押して欠ける事が度々あったがこの4人での監視体制が基本となった。半月が経過する頃には2人の密会には大まかな規則性があるのが分かってきた。
 男が来るのは月曜を除く週二回。それ以外の日でもアリシュアは友人達と食事を共にするのを拒んでおり、たまに後輩が一緒にいる以外は大抵一人で摂っている。
 男と居るときアリシュアは殆んど無表情で、端で見ていても楽しそうな感じはしない。逆に男の方は笑みが絶えず、双方は実に対照的だった。そして食べたらさっさと戻り、男はそれに着いて行く。
 代わり映えのしない毎日で次第にエレンとイリッシュは飽いてきたようだった。カインでさえも監視の席で迫る試験の勉強をする始末。この問題に対してフィーアスだけが切実だったのだ。
 ある日エレンが男性を一人伴ってやって来た。ヒューブ・ザリである。
 彼はこの集会の趣旨を聞いて顔を顰めた。無粋だと言うのだ。
「ロブリー、君まで……」
「いいじゃないですか。だって気になるんだもの」
 イリッシュがすまして言えばエレンが煽る。
「一度振られたくらいで諦めるんですか? ふん、このヘタレ」
 後輩の口の悪さを窘めはしたが、ヒューブはちらりと離れたその席を振り返り、もごもごと言い訳を言いながら輪の中に入って行った。





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あきゅろす。
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