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 放り出したままでは邪魔になるので南殿の欲望の産物を自宅へ移動させる。数えてみると十五袋もあった。呆れながら無人のリビングの隅に無造作に置く。
 時刻は既に深夜に近い。二階の各自の部屋へ蹴飛ばされた布団を直しに回る。
 毎度の事ながら、ロゼヴァーマルビットは枕と反対側に頭がある。一体どうなっているのかいつも謎だ。
 それを直した後に向かうのは主寝室である。
 本来夫婦の寝室なのだが、コーザがここで眠ったのは数える程しかない。以前はもとより、眠れるようになってからも必要がなければ近づかない。コーザが横になるのは大抵リビングのソファだがフィーアスは不満なようだった。
 その寝顔を眺めながら仕方がないのだとコーザは思う。
 貴女を大切にしたいと思うなら、自分が近付かないのが最も効果的な方法なのだから。
 手の甲で白い頬を撫でる。
 この頬をどれだけ涙で濡らそうとも、危険に晒すよりはずっと良い。
 彼女が視界に入るたび、一刻も早く手放さなければと焦燥感に襲われる。
 死にたくて片っ端から敵を作ってきた。そんな自分の側にこんな弱々しいものを置いておくことはできない。
 そう何度説いても、彼女は離婚に応じてはくれない。
 どうしたらいいのかと周囲に尋ねても「手元に置いて自分で守ればいいだろう」というばかり。側近に至っては「政略結婚の意味が分っているのか」と睨んでくる。勿論承知しているからこそ渋ったのだ。
 嫌われる為にこれまで様々なことをやってきた。
 無表情無関心から始まって温室育ちには耐えられないような酷い蔑み方もした。徹底的に気配を絶ち彼女の視界から身を隠した。あとやっていないのは下品な行動と女遊びくらいか。どちらも気乗りしない。
 後者に関してはそういう場所に度々足を運んだ事はあっても、結局飲食と会話しかしせず払い下げてしまった。玄人相手でその様では、フィーアスの目の前で素人女を相手にしても何も起きないだろうと自分で分る。
 それ以前にまず紅隆の周囲の者が笑い飛ばすだろう。
 フィーアスの寝顔を眺め時には髪を弄んでいたが、一時間ばかりでコーザは主寝室を後にした。これ以上見ていたら、また絆されてしまいそうだったのだ。
 明け方まで仕事をし、ワゼスリータが起き出す頃合を見計らって家に戻る。
 ワゼスリータは忙しい母を慮り、食事の仕度をする暇があるのならその分寝ていて欲しいからと、学校に上がった頃から台所に立っている。
 勿論そんな健気なことをしてエテルナやケイキが黙っている訳がなく、仕事の合間を縫っては一緒になって家事や下の子の面倒を見ていた。
 遮光カーテンを引いたままのリビングは暗い。ワゼスリータは寝癖の付いた頭のままテレビを点けたところだった。天気予報をぼんやり見ている。おい、と声を掛けるとゆっくりとこちらを向いた。
「び……くりしたー……」
 ルシータの戦利品の話をすると慌ててカーテンを開け、袋の山まで駆け寄りその量に感嘆の声を上げた。
「……ねえ、いつもこんなに頂いちゃっていいのかな?」
 服を広げて楽しそうにしながらも言葉には戸惑いが滲んでいる。
 ワゼスリータだってルシータのことは好きだが、彼女のことを詳しく知っている訳ではないし、南殿の執務室にもあまり行った事がない。父親とルシータの仲が頗る良いというなら兎も角、実際特にそういう訳ではないのだ。同僚以上友人未満という何とも微妙な仲の人にと引け目を感じてしまう。
 しかし少女の父は心底どうでも良いという顔をしている。
「こんなのただのストレス発散と税金対策のハイブリットだよ。貰えるもんは貰っときゃいい」
「ストレス溜まってるの?」
 常時鬼の監視下に置かれているのだ。溜まるに決まっている。



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あきゅろす。
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