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 その通信をカインは自室のベッドの中で受けた。
『ごめん、寝てたよな』
 珍しく映像通信で連絡してきた父に欠伸で答え、枕元のスタンドを灯す。
「……まだ仕事してんの?」
 時刻は深夜を差していた。このところ、父は目に見えて具合が悪そうにしている。母には黙っているが、カインは父がこっそり血を吐いていたのも知っていた。
 調子悪いんだろうと訊くと流石に隠し切れないのを自覚しているようで素直に認める。
『でも苦しいのから解放してくれる人が来たから、もう直ぐ楽になれる。その前に、お前の顔が見たくてね。ごめん』
「明日は帰ってこれるの?」
 どうにも眠くて仕方がない。頭を半分枕に沈めたまま、片目でモニタを覗く。
 青白い父の顔は、一瞬固まったものの何故か花のように綻んだ。
『いや、帰れないんだ』
「……父さんさぁ、いい加減にしないと本気で母さんに殴られるよ。ああ言ってたけど、母さん凄く心配してるからね? 毎日電話してきては帰って来たか?とか調子はどんなだ?とか俺に訊いてくるんだよ。自分で確かめろよなぁ…」
 現在別居中の両親だが、決して互いを疎んじて距離を置いている訳ではないのは、さすがに分かる。ただどちらも譲れない一線があるらしく、母が家を出るまで口論は絶えなかった。
 母は元来が喧嘩っ早い人で、この頃には我慢が効かずに度々手が出て、父の顔は絆創膏の無い日は無かった程だ。5日連続でやらかした朝、青い顔で「まずい」と呟きながら母は荷物をまとめたのだった。
 あの朝から直に1年になるが、変わったのは父の体調が悪化した事だけだ。
『………確か、少し前から地方研修に行ってるんだったな』
「……うん……、帰るのは明後日だって……」
 眠くて仕方がない。カインは大きな欠伸をして目を擦った。
 それでも何とか身を起こそうとすると、父が苦笑とともにそれを制した。
『ごめん、もう切るよ。明日ちゃんと起きて学校行くんだぞ』
 こんな時間に起こしておいてよく言う。そう言うと、父は再び「ごめん」と繰り返した。
「じゃあ、おやすみ。父さん」
『おやすみ』
 通信が切れる。再び手を伸ばしてスタンドの灯りを消して、カインは夢の世界へと旅立った。




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