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 厚生労働省では今日のような一般公開日を利用し民間の医療技師や福祉関係者、大学教授などを招いて報告会を開いている。現場の声を取り入れるためだ。
 その為、この日ばかりは通常業務は大幅に滞り翌日へ持ち越すことになる。これは何処の省庁も似たようなものだろう。
 そんな特別業務をようやく終えてフィーアスが向かったのは外務庁第一執務室だった。
 基本的に外務庁は一般公開日には不参加である。以前は低位官などを雑務に回したりもしていたが、ゴルデワと交渉状態である現在ではそれも絶っていた。
 就業時間が過ぎても、中には結構な人数が残っていた。邪魔をしないようにそろそろと友人の机を目指す。
 タインは直ぐにフィーアスに気付き、仕事の手を止めて待っていた。
「どうした?」
 フィーアスは突然来た事を詫び、話があると廊下へ誘う。
「予告しておいた方がいいかと思って」
 無人の廊下へ出ると直ぐにフィーアスは口火を切った。この一言で悟ったのか、タインの表情が一気に引き締まる。
「西殿か」
 ここ暫くゴルデワからの接触がなかったのは、世界王の怪我療養の為だというのは最早外務庁で知らぬ者はない。
 本来間諜目的で世界王に嫁がせたフィーアスはそのその役目を全くと言って良い程果たしていない。当人達をそっちのけに両政府が思惑を絡めているとはいえ、そもそもフィーアス本人が紅隆に入れ込んでしまった為に興った縁談だったのだ。恋しい男のプライベートやその仕事の情報を話す女ではない。
 故にその情報を齎した財務省の男は本来ならば褒められて然るべきなのだが、あれだけ派手にひけらかしてはせっかくの功績も台無しである。披露の場に居合わせた厚生労働省長官と財務省長官にかなり絞られたらしいが、例の男は未だに自分が何を言ったのか分っていないだろう。
「怪我も治ったし、そのうち挨拶に来たいって言ってるの。調整中でまだ日程は決まっていないんだけど、ほら、早めに対応したいかなって……」
 世界王として正式訪問を受けるとなると、相応の準備が要るのは間違いない。しかし彼は大仰にする必要はないと言って予告したニ、三日後にやってくるという事を繰り返している。
 過去の大混乱を思い出し、タインは蒼くなる。
 額を押さえて息を吐くと、上にも話してくれとフィーアスを中へ導く。長官室で仕事中のコルドにその話をすると同様に蒼くなった。
「ロブリー、良く知らせてくれた」
 労う声には疲労が濃い。盛大に椅子に凭れたコルドは天井を見ながらマイデルには報告したのかと訊いた。
「……いえ……、その……」
 唯でさえ最近機嫌が悪いのに、そんな事を言おうものならどんな罵言が飛んでくるか分らない。公式通知の前には言わなければいけないのは承知なのだが。
 察したのか、分るぞ、とコルドが苦笑する。
「マイデルは西殿が嫌いだが、逆に西殿はあいつを気に入っているようだからな。優秀な部下まで取られて、本人からすれば腹が立つことこの上ないに違いない」
 シルヴィオ・マイデルという男は元から物怖じしない性格で、正義感が強いが現実も良く知っている為進退のタイミングを良く掴んでいる。紅隆本人が気に入らなくともゴルデワと一時提携をする事に承諾したのもその為だ。敵の敵は味方だと自分に言い聞かせているのだ。
 コルドからすればその「敵」の認識を改めて欲しいのだが、まるで柳に風だった。
「……ま、折を見て伝えるように」
「はい」
 その折を測るのが難しいのだ。フィーアスは一礼して外務庁を退出した。
 

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