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 売店から戻ると丁度その場面に出くわした。
 世界王西殿秘書官が宣戦布告があったと零し、それを聞いたフィーアスが「大変だ!」と慌てふためいている。
 世界王政権の一大事である筈なのにキリアン・ワイアットの反応は極めて薄い。フィーアスはその態度に困惑しているようだ。
 一般的には彼女の反応が正答だよなと考えながら椅子を引いたところで待ち人が現れた。
「ああ、お疲れさん」
 疲れ切った様子のランティスが対策本部内に入ってくるところだった。丁度良く本部長副本部長が不在だったので咎められずにアリシュアの元までやってくる。
「…………遠いんだよチクショウ……」
「泣くなよ」
「泣いてねえし」
 ランティスは提げていたショルダーバッグを下ろしてアリシュアの席の上にでんと置く。
「お前あれだ、もの食いながら電話口に出るなって言っとけ。もぐもぐいってて何言ってんのか分かんねえんだよ」
 一先ず売店の袋を脇に置いてバッグの中を物色しにかかっていたアリシュアは首を傾げて昔馴染みを見上げた。
「会わなかったのか?」
「会ったよ! だから遠かったって言ってんだろ。しかもあの野郎常に何か食ってるし、あれだけ食って何であんなガリガリなんだよ意味が分からん」
 ペースは至って普通だが、その量たるや尋常ではない。分かっていたつもりだったが認識が甘かった。
 アリシュアは更に首を傾げる。
「だから、飴の袋を渡したでしょ? アルは飴だけは噛み砕かないから、無くなる毎に口に突っ込んでおけばその間会話は成立するんだって」
「!? あれ、道中食えってことじゃないのか!?」
「……何であたしが道中でのお前の口寂しさの心配をしなきゃならねえんだ、アホか」
 アリシュアは顔を押さえて項垂れるランティスを無視してバッグの物色を再開する。膨らんだバッグの中にはハードディスクドライブが三台、ファイルが四冊、外部記録端末が二本、そして円柱型の真っ黒い物体――超小型のフォミOS。
 アリシュアはファイルを順に開いて目当てのものを探し出す。散り散りになったかつての仲間たち全員の消息だ。
 流石に人数が多いので記述には「データ参照」の文字が多い。けれどある人物の頁だけは全て印刷されていた。しかもそこにはよく見覚えのある筆跡のメモが大量に入っており、彼も事態を案じていたことが窺える。
 一緒にそれを覗き込んでいたランティスは来るように誘ったものの断られたことを告げる。
「金にならない事はしたくないとか言いながらこうやって調べてたんだから、あいつも相当気を揉んでるんだろう。ハーディルやグリーデアとも情報共有しているらしい」
 ランティスは声を潜め更にアリシュアの耳元でぼそぼそと何事か告げた。それに対し、アリシュアは部屋の奥を示す。わたわたしている厚労省員とつまらなそうな世界王秘書官の対比が現状を克明に物語っていた。
「? 何だ? まさか」
 そう、とアリシュアが答えるとランティスは再び頭を抱えて溜息を吐く。
 ファイルをバッグに戻し、売店の袋を手にしたアリシュアは机の間を縫って砦の前に立ちフィーアスに声を掛けた。
「フィーアス、これ」
 声を掛けられた方は飛び上がって驚いた。大袈裟だなと思うと同時にビクビクしている姿が目に入り少しだけ残念に思う。男を挟んだとき――と、フィーアスは思っているようだ――女同士の友情は案外脆いらしい。昔も似たような気遣いをしたことを思い出す。
「誰かとの約束がなければ、コレあげるからここで食べていきなよ」
「え、でも……」
 有無を言わさず押し付けて席に戻る。自分は膨れたショルダーバッグを肩に提げ、ランティスの背中を押して昼の対策本部を抜け出した。歩きながら携帯端末を取り出す。
「あ、ファレス? 私今日はもう帰るから、後よろしくね」





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あきゅろす。
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