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 タイン、フィーアスと別れ四人は対策本部に向かった。
 本部で何があると言う訳ではなく、キリアンが砦内に置いてきた書類をゴルデワ人二人に受け渡すのだ。
 キリアンの存在に随分慣れた対策本部だが、流石にジオの制服姿には動揺が広がった。そんな彼らの前に似たような恰好をしたゴルデワ人が二人もやって来たものだから、室内に緊張が奔る。
 そんな非歓迎ムードもどこ吹く風のレダが、キリアンの机の幕板の大きな凹みを目聡く見つけて声を上げた。
「うわっ、なにこれ。キリアン、また随分ハッちゃけたねぇ」
「変な言いがかり付けるな。それはエーデが……」
 僅か数日前の事である。思い出してキリアンは背筋を震わせた。
「エーデと言えば、あいつこのところ家の方に出入りしてるよね。昨日だったか一昨日だったか僕たちのとこへ来て、お前ら知ってたのかって妙な難癖着けてきてやや暫らくヴィンスと睨み合ってたよ」
「…………」
 聞こえないふりをしたキリアンは避けていた書類やファイルの束をレダの目の前にでんと置く。すると興味がそちらへ移ったらしく、何だよこれ溜め込みすぎだろと文句が返った。
 ザインマーには三本の外部記録端末を差し出す。それを見て更にレダが不満を漏らす。
「こっちもデータにしてよ」
「最終版だぞ」
 先程の失効証明書と同様、専用用紙に印字されている公文書だ。改竄可能なデータ保存など出来ない事はレダも重々承知な筈だ。
 そもそもキリアンはこれを裸で持って帰れなどと一言も言っていない。レダ自身、ぶつぶつ文句を垂れながら懐から圧縮カプセルを取り出している。スキャニングを済ませ圧縮収納すると何事も無かったかのようにまた懐に仕舞った。
「そういえば填黄殿は見つかりそうなの?」
 話を振られたザインマーは苦々しく笑う。
「あのクソ魔術師が釣れるネタの提供は絶賛募集中ですが、何か?」
 填黄殿との面識のないザインマーがこう言う程手掛かりがないのだろう。元から強いと言われ、後に有名な魔導大会で二位に大差をつけて優勝を掻っ攫った男だ。本気で隠れられたら中々見付かるものではない。
「完全に隠遁してはいないだろ? 前に太白殿が持ち帰ったっていうデータ、あれは填黄殿のファイノペイシャ経由で手に入れたそうだから」
「人と違って自在に消えたり現れたりできるんだぞ。どっちにしろ姿を見せてくれない事には探しようもない」
 ごもっとも。
「ネタね。――――俺も当ってみるよ」
 西方の中でも歳青殿の協力を知っているのは極々一部に過ぎない。その中にあって、キリアンは歳青殿との連絡係も担っている。填黄殿のことは歳青殿に聞け、である。
 不意にザインマーと目が合う。心理学にも造詣が深い戦略軍師は台詞の微妙な間に気付きつつも、レダの前では問い質すようなことはしなかった。代わりに、掌の上の外部記録端末をわざとらしく弄ぶ。中の情報は百パーセント正しいのだろうなと詰問されているようにキリアンには感じられた。
「何そのアイコンタクト」
 にやあ、と不穏な笑顔のレダを見上げザインマーは何のことだと空とぼける。実際、アイコンタクトというよりは視線による探り合いと言った方が正しいので、ザインマーも強ち嘘を言っている訳ではなかった。
「こら、レダお兄さんに隠し事が出来ると思ってんの?」
「俺の方が年上だろうが! やめろ!」
 ニ十センチ弱の身長差を活用しレダがザインマーのセットした髪を子供にするように掻き回す。額に流した前髪が捲れ上がり傷跡が見え隠れしていた。
 レダに知られるのが悪いのではない。それを知った彼が面白がって事態を掻き回す可能性が高いが、それを阻止するだけの余裕が無いのが問題なのだ。何と言っても色々と面倒な事案が重なりすぎている。騒ぐ同僚に自然溜め息が漏れた。





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