[携帯モード] [URL送信]
212



 楓相院との接見をどうにか無事に終えたゴルデワ一行が次に向かったのは外務庁第一執務局側の応接室だ。呼ばれたフィーアスもそこへ駆けつける。ヴィンセントが来ると聞いていたフィーアスもレダの顔を見て驚いたが、彼女はレダの異常性をよく分かっていないのもあって全く問題視はしなかった。
 サンテ側はコルド、タイン、フィーアス、ゴルデワ側がキリアン、レダ、ザインマーという並びでテーブルを挟みソファに陣取った。
 切り出したのはキリアンだ。
「実行されるまでは秘匿義務があったので言えなかったのですが、先程世界王西殿に対しこれが発令されました」
 差し出すようにテーブルの上に置かれたのは一枚の紙。金箔のキメラ薔薇が圧された物々しいそれを覗き込んでみるとゴルデワ語で「暫定的世界王権失効証明書」と題されている。「あ」とフィーアスが声を漏らした。
 外務庁組からこれは何かという目を向けられ、フィーアスは昔説明された記憶を引っ張り出した。
 世界王は一人でも職責能力を失うとその政権は解散を強いられる。が、その世界王権を持つのが生き物である以上怪我や病気で執務が執り行えない期間が必ずある。
 世界王でなければならない重要書類をいつまでも溜め込むことは出来ないので、一時的に側近に世界王権を移すというものだ。勿論これは大変なことで、ちょっと風邪で寝込んだくらいでは発令されたりはしない。
「結婚してから三回目ですね」
「任命されてからも三回目ですよ」
 ザインマーが苦笑し、補足する。
「今月七日に北殿が正式に復帰したのですが、それまでこの王権移行令は北方に発令されていたんです。世界王が二人同時に失権というのは流石に出来ませんでしたので」
 一時心停止までしたディレルと昏倒したものの意識を回復した紅隆とでは当然ディレルが優先された。
 ここでフィーアスが驚きの声を上げる。歓喜というよりただただびっくりした、という調子だ。
「え!? ディレルさんいつ目を醒ましたんですか?」
「先月の二十日過ぎくらいですね。でも何日かでまた昏倒してしまって、確か一週間ぐらいはうんうん唸ってたんじゃないかな」
 信じられない、という顔で息を詰めるフィーアスが何を考えているのかキリアンにはよく分かった。
「すみません。政権の存続に関わる機密事項なのでお話しできなかったんです。そしてまだ秘密にしておいて下さい」
「え?」
 レダが後を引き継いだ。
「ワゼスリータにも」
 あの日の体験もさることながら、ワゼスリータが眠れない程ディレルの心配しているのは皆よく分かっている。自分の不完全な対処のために死なせてしまうかもしれない恐怖に怯えているのだ。
 自分の安眠確保のためにと称して世界王付西方執行部の面々で代わる代わる添い寝をしているのだが、寝つきも良くないし夢見も悪いようだ。精神科医も腐心しているがなかなか好転しない。
 そんな報告を聞いている母親としては娘の憂いは早く晴らしてやりたいと願うのは当然だが、ゴルデワ人三人は駄目だと首を振る。
「復帰と言ってもまだ自室療養指示が出ているんです。少しなら書類仕事も出来るんですが無理はさせられません。それにイゼルが駄目だというものを無碍には出来ませんから」
 このように常識的なことを言えるところが侮れないのだとレダを横目で見たキリアンは逸れた話を戻した。わざわざ外務庁を交えて北殿の復帰を報告したかった訳ではない。
 紅隆の事だ。
 レダに先程の薬瓶を出させ詳しい説明をザインマーに委ねる。
 吐血したことや薬を飲んで落ち着いたこと、王権は失効していても基本的に仕事はさせることを話す。フィーアスはその度に大きく頷いた。
「紅隆が取り縋って来ても無暗にあげちゃだめですよ」
 レダの注釈ではまるで餌を欲しがる犬である。



 


[*前へ][次へ#]

2/15ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!