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「一つ。ニコラは常時ソルフの監視をしていて何かあれば逐一報告が来ていたんだが、あの日以降におかしなものが紛れ込んだという話はない。
 二つ。ニコラの監視は決してリアルタイムじゃない。あれくらいのタイムラグならニコラが閲覧するより先に記録領域から削除されていただろう。
 三つ。うちのバカ息子は相談すると言ってコーザと別れたが、その相談相手に選ばれるのは誰か。難しく考えるまでも無く、内情に通じていて情報戦に強く親しくしている輩と言えばイゼルしかいない。が、あいつはあの日、ダルキエの振り上げたナイフを掴んで負傷し半日医療棟に入院している。実際に接触したのは翌朝だろう。
 四つ。イゼルに相談の上、結局渡すことにしたデータ一式だが、一つ目に述べたようにソルフのデータベースには未だに上がって来ていない。では何処にあるのか。ロブリー家? いいや違う。あそこはネットワークでソルフと接続可能だ、わざわざ映像の改竄まで行ってソルフから隠蔽したのにあれの手の届く範囲に置いておく訳がない。
 では何処に?
 西方の中でジオの外に自由に行き来できるだけの言い訳が立ち、長時間、ソルフと隔絶された独立端末での精査業務が可能な環境が整っているのはお前を置いて他にはいない。
 消去法で簡単に辿りつける」
 メラミンヴォットアルミ素材の幕板が強い圧力に耐え切れず事務机の内側に向かって山を作った。自分の方に向かって隆起するそれを見、氷のような目をしながら長口上を述べたエーデを見上げ、キリアンは自分の職務と青少年の未来、そして眼前に立ちはだかる恐怖を天秤にかける。
 机を蹴った音に驚いて水を打ったように静まる対策本部の静寂をゾイドの怠そうな声が破った。
「キリアンよ。なんでこいつが鬼なんて呼ばれてるか知ってっか?」
「?」
「鬼のように強いんじゃなく、鬼のように理不尽だかららしいぞ」
 失礼なとエーデは同行人の軽口を窘めたがキリアンの天秤はそれでがくんと傾いた。足の痛みなど忘れ勢いよく立ち上がると、壁際に放り捨ててあった鞄から外部記録端末を取り出して、コピーを取ることとマクベスには一切何も言わないことを引き渡し条件に挙げた。
 ゾイドが首を傾げる。
「コピー取ってないのか?」
「これが唯一取ってるコピーだよ」
「……オリジナルは? 没収しているんだよな?」
 鬼が眼光を光らせる。
 データをコピーしようと空の外部記録端末のパッケージを開けていたキリアンが言葉を詰まらせたのを見てエーデは現状を把握したようだ。自分が回収すると言い出した。
「……い、いや、データコードだけ消させればいいだろ? 俺が言うよ」
 映像を観れば分かる通り、これら固有財産はマクベスの携帯端末を通して表示させてはいたが元々は彼が持っていたキーストラップにコード印字の細工がされた代物だ。マクベスとアムロはそれらを出来うる限り見つけ出し提出してくれている。マクベスにとっては命を懸けて愛した恋人の残り数少ない遺品だ。現物は手放したくないと言う願いに応える代わりに誰にも喋らないと約束させてある。
 しかしマクベスの父親はそれを甘いと一刀両断し、吐き捨てた。
「あの女がこねくり回した物を何で後生大事に持ってなきゃならない」
「マクベスには大事なものだ。とにかく、お前が行くとまた拗れる。俺に任せてくれ」
 コピー閲覧用に新品の端末を買いたいと言うエーデにフィーアスが官舎自室の端末を提供した。
「型は少し古いんですけど」
「いえ、結構です。有難うございます」
 仕方なくキリアンは変換機とフィーアスから預かっていた官舎の鍵を渡す。どうせ今日は帰れない。
 闖入者二名はコピーされた外部記録端末を手に入れると対策本部に騒がせたことを詫びコルドに挨拶して去って行った。





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あきゅろす。
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