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 三つの省庁の代表者たちで行った問題の映像の精査作業中、キリアンが顔色を変えた場面は多かった。その中でツイズに見られて不味い場面は当然、真っ先に確認した彼の息子が出てくるあの場面だろう。
 三大王政権崩壊時に流出し続く五大王が回収しきれなかったジオの固有財産。
 映像は次のように続いた。
 紅隆はツイズの息子に取引を持ち掛ける。彼が持つそれらの情報の現物もしくはコピー全てをこっそり自分に渡すこと。
「例の女のマンションに行くなら協力してやる。誰かに相談してもいいぞ?」
 この後世界王は同行していたAIに少年らと会ったという事実を記録から抹消させ、辻褄が合うように差し替え用の映像の撮り直しまで行っている。文部科学省が男子生徒に持たせたビデオカメラは勿論何の干渉も受けていない。AIがビデオカメラの存在を指摘したが世界王は「そのままでいい」と言ってにやりと笑ったのだ。
 少年たち、とくにツイズ少年はかなり思い惑って相談させて欲しいと呟いた。コルドはそれ以上のことは知らない。
 誰が見ても青い顔をキリアンは何でもないと言って振った。
 エーデに見せたくないのはコルドの推察通りあの場面だが、今指摘された部分も違う意味で見せられない。
 ロブリー姉弟を目に入れても痛くないほど可愛がっているフォンシュピッツヴェーンがワゼスリータを怒鳴り付ける程の事態がさらりと起こっていたのだ。
 キリアンは西方の問題だの一点張りで押し通した。既に対策は取ってある。もう事を荒立てたくはない。
 映像の視聴についても不可の姿勢を貫き通す。内容が内容だけにコピーも取っていないし、上映会を済ませば外務庁の資料室で埃を被るべき類の物だ。
 空気を読んだコルドがキリアンに賛同したので、未練を覗かせつつもエーデもそれ以上食い下がることはしなかった。
「でも説明役は必要だろう? まさかワージーにさせる訳にもいくまいよ」
「そりゃあそうだけど」
「ならゾイドにやらせよう。あいつは今暇だ」
 微妙な顔をするキリアンにコルドは誰かと問うた。
「ビデオに出てきたヴァンパイアチルドレンですよ。男の方」
 特徴的な黄緑色の髪をした背の高い男だ。ああとコルドは頷く。
「でもその間子供はどうするんだよ」
「うちで預かる」
 そうは言うが実際に面倒を見るのはエーデの妻だ。今だってやんちゃ盛りの末息子に加え孫娘にディレルの娘まで抱えているのだ。その上もう一人赤ん坊を追加したら彼女は倒れてしまうだろう。
「マクベスもリヴもいるし問題ない」
 あてにされる学生たちはいい迷惑だろうが、マクベスにとっては自身の保身に繋がることだ。我慢してもらうよりない。
「来週末には紅隆に職業説明をさせるとか」
「はい」
 部下とシクレイズ小校長から報告を受けている。
 その催しでは世界王の護衛として公式に五人が、非公式に二十人の計二十五人の護衛が入るとの説明もキリアンを通じて受けている。世界王への襲撃を警戒して、という体裁だが、実情は紅隆が暴走した時の抑えと生徒や教師の護衛役だと言われては受け入れざるを得ない。
 勿論、この職業説明会に関しては外務庁と文部科学省が極秘裏に許諾したため、他には誰も知らない。同日に世界王一行の公式訪問を予定しているため楓相院も元老院も内閣官房府もそちらに気を取られている。
「その際の護衛の中に儀堂の者が二名加わることになってしまいまして……」
 それも聞いていた。内一人がどうもサンテに侵入し春宮に出入りしていたようだと打ち明けられたたとき、アミンが言っていた怪しい女とはそいつだとコルドは妙に確信したのだ。
「大丈夫、全て心得ております」
 そう言うと南殿側近はほっとした様子で謝辞を述べる。
 来週が何事も無く過ぎるのをこの場の全員が強く望んでいた。





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あきゅろす。
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