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 民家に待機していた南方軍人らが駆け付けたのは二人が立ち去った僅か四分後の事だった。下手をすれば基地内で行き違った可能性があると聞いた第一発見者達は大層歯噛みしたようだ。
 トイレに駆け込んだキリアンに代わり紅隆への連絡はアリシュアが行った。世界王西殿は連絡回線の接続時間を考慮し自宅に留まっており、煩雑な手続きを経ることも無かった。
 五大王の元秘書官と一緒にいた男の正体も突き止めた。
 元々キリアンが検索を掛け始めたのだが、彼が席を離れたのを機にアリシュアが再度検索し直した。キリアンは現政権以前の関係者内から画像及び音声検索を行ったが、アリシュアは検索範囲指定欄に「リカル・ワッツ」と入力し、ものの一分弱で探し当てたのだ。
 人名のようだったので男の名前かと思ったが全く違ったようだ。
 男は三大王焔青方の元軍人。その報告を受けた紅隆は渋い顔で傍らにいた部下に指示を出す。
 直にキリアンが戻って来た。胃液しか出ていない筈だが青い顔はげっそりとやつれている。モニタの中の自分の上司を見つけて投げやりに声を掛けた。
 男のプロフィールを見てキリアンも顔を顰めてぼやく。
「また三大王政権かよ……。どうなってんだあの代は」
 現場はまだ混乱しているようだ。遺体と怪我人の運び出しがそろそろ完了するという。
 モニタの中で紅隆が部下から報告を受ける。彼は頷くとコルドに声を掛けてきた。
「先日お見せした次元口の安全確保が完了しました。どうもご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした――キリアン」
 ゴルデワ人同士で簡単なやり取りが行われると、キリアンは通信を切断し青い顔のままこちらを振り返って紅隆と似たようなことを言ってコルドに頭を下げた。
「皆さんも、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「ちょっと……待って下さい。何も解決していないじゃないですか」
 被害は甚大、犯人一味は逃げたまま。早く検問を敷かねば逃げられてしまう。
「あの次元口を確保してしまったなら、もうサンテには関係ないですよ。後は南方の問題ですから」
 コルドは次の言葉を呑みこんだ。
 映像があまりに衝撃的過ぎて引きずられてしまったが、確かに言われてみればサンテには何の関係もない。しかし――
「すいません、私も動転してしまって。シュダーノフが言っていたポイントはこちらでも今確認に向かっているそうですから、そこが確保できれば完了です」
 対策本部からも人が向かっている。そろそろ現場に到着する頃だろう。
 口にはしないが罠の可能性も無くはないとキリアンは考えていた。
 画面の中の二人の行動姿勢には著しい差が見て取れた。無論、軍人と文官という惨状への慣れの差はあるにしても、女の方は誰が見ても「渋々」という様子だった。相方の居ない間に女が見せた行動もその印象を補完するものである。
 コルドは見ていなかったが、シュダーノフは男が戻って来るまでにこの後の退路方角を漏らしている。積極的に参加したのであれば絶対に漏らす筈のない情報だった。
 ただし方角が分かったからと言ってジオに出来ることは殆どない。何故なら現場は公国。ジオにとっては完全に治外法権なので現地の警察を動かすことも、勝手に道路を封鎖することも出来ない。
 今行っている救助作業も紅隆の空間術で月陰城と直通しているからスムーズにできているに過ぎない。
 歳青方は西方と同じ外務担当だが、当時公国担当だった填黄方とは世界王同士の繋がりが深く、ある程度内情にも通じている。シュダーノフはそれらを加味した上で敢えて逃走方向を漏らしたとしたら、その先に何か待ち構えている可能性もあるだろう。
 無論キリアンが杞憂するまでも無く現場の人間が解っているだろうが。
 困惑しているコルドの背後ではアリシュアが棒立ちになっていた。




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あきゅろす。
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