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 混乱するコルドを置き去りに画面の中のヘザーは容赦なく男の顔を変形させていく。
「え、何? 二人仕留めておいて本当に怪我しているの?」
 何のことかと思えば人質にされていた男性に話しかけているようだ。倒れた八人の内六名はヘザーによって足を撃たれていたが、他の二人は首から大量出血していて絶命しているのが分かる。見事敵の手から逃れた彼は呻くような声で腹部を撃たれていると訴えた。
 ヘザーは痛めつけていた男を蹴り飛ばすと――男は凄い勢いで壁に激突した――他の反逆者たちを踏みつけながら仲間の男性の身体を起こす。彼だけを抱えて作業盤に凭せ掛け傷の具合を確認した。出血が激しく直ぐに血溜まりが出来始める。
 彼は自分の手で傷口を押さえながら下位層の部下たちは全て裏切ったと思った方がいいと告げる。
 月陰城勤務の職員は多くいるが世界王と常時面会できるのは上層部の者だけだ。
 けれど文官にしろ武官にしろそれだけでは到底賄えない。今回のようにジオの外に出て現場を担当するのは基本的に中位から下位層の武官である。
 現在世界王南殿が身分を隠してイクサムに乗り込んできているため、もしもの時のための後方支援要員として上層部七名、中層部十六名、下層部四十三名が駐屯している。ただし上層部七名は基地に四名、次元口の家に二名、サンテマンションに一名でローテーションを組んでいた。
 上中層部二十名に四十三名が不意打ちで襲い掛かった。既に三名死亡したと聞きヘザーは未だ倒れ呻いている男たちの中の一人を吊し上げた。女のヘザーには到底不可能な筈なのに、彼女は自分より二十kgは重いだろう男の胸ぐらを掴んで引きずり立たせる。
「今決行したことに何か理由でもあるのか?」
 キリアンもコルドもアリシュアも、このセリフの真意を悟った。
 サンテ人の武装集団を編成しシーズヒルに展開させた隊長と呼ばれるゴルデワ人。そしてセルキンス州内で目撃されたギデアイン。その伯父エルジア公爵ウォルター・R・サニユウが治める国イクサムで起きた惨劇。現在公爵の居城ピューモルティカ城には担当官として南殿が滞在している。
 事実上交戦状態の中、やって来た使者を殺して送り返すなど公爵側には容易いことだがそれを出来ない理由があった。
 以前公爵主催のパーティーに世界王全員が身分を隠して参加した際、ルシータがナーザイツ伯爵令嬢だと発覚した騒動があった。故に公爵側はルシータのジオでの立場が何であれナーザイツ伯の身内であるという前提の元対応しなければならなくなったのだ。
 ルシータに害を成すことは即ちジオと同時に伯爵を敵に回すこと。
 ジオは当然それを見越し、対応に困って膠着状態を招いている間にルシータに感応能力で公爵の真意を探らせることを第一の目的としている。
 狙い通り戦況は睨み合うばかりで一向に動いていない。基地駐屯部隊にはその間の諜報及び破壊工作も担当していたのだが、世界王筆頭秘書官だったギデアインにはその展開も読めただろう。
 質問してから幾らも経っていないがヘザーは取り出したナイフで男を刺し、再度同じ質問をする。それでも答えないのでナイフを引き抜きまた刺した。
「ライガー使うにも時間が掛かるんだから、早くして」
 それでも答えないのを見て、ヘザーはそのナイフで男の頸動脈を深く切って放り投げる。男の体は血飛沫を上げながら仲間の上に崩れ落ちた。
 蒼白になって絶句するコルドが見守る中、ヘザーはもう一人を同じ方法で殺害すると様子を見てくると言って操作室を出て行った。
 この時点でも部屋の中は惨憺たる有様だが、最初に見た時の状況はもっと酷かった。これ以上の何かが起こるのかと冷や汗を拭ったコルドに部下が離脱を勧める。
 彼女は全く平気な顔でこちらを見上げていた。





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