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 空間ディスプレイには十数秒遅れのライブ映像が映っている。
 キリアンもコルドも、不用意に見たことを早くも後悔したほどの惨状だった。
 床、壁、そして天井まで、夥しい範囲が赤く染め上げられている。遺体や怪我人は既に運び出されているので判断のしようもないが、一人や二人の量ではないのは素人の目からも明らかだ。
血の海、というものの実物を二人はこの時初めて目にしたのだ。
 映像の中では救援隊が忙しなく動いて実況検分をしているが、彼らの表情も険しい。撮影しているのは元から設置されていた監視カメラだが、何かにぶつかったのか映像は微妙に傾いていたしレンズに血痕が付着しているようで赤い飛沫が散っている。
「…………え……液体爆弾が有った筈だ。それはちゃんと有るんだろうな」
 コルドはギョッとしてキリアンを見る。携帯端末で話す彼の頭は震えているのか頷いているのか小刻みに揺れている。ほっとした様子にこちらも胸を撫で下ろした。
「被害はそこだけなんだな。家の方には…………そうか。うん、分かった」
 通話を切ったキリアンは次元口のある歳青殿の持家には現状で異常は無いことを説明した。ただし基地との位置関係を見ても決して楽観視は出来ない事を付け加える。
 そして安全か危険かを判断するにはライブになっている映像を録画再生に切り替え、実行犯の正体を確認しなければならない――が、前述の通り室内の状況だけで震え上がっているキリアンには中々踏み切ることが出来ない。
「何をしているの。さっさと再生しなさいよ」
 横から声を掛けられ二人とも飛び上がる程驚いた。恐怖で硬直した体は少しの刺激にも過剰反応する。
 アリシュアは情けない男たちを押し退け、キリアンが止める間もなく映像を再生させた。
「――――!!」
 二人は声にならない悲鳴を上げたが、懸念とは裏腹に空間スクリーンが映し出したのは惨状など何処にも見えない室内だった。先程は血糊でよく分からなかったが、どうやらここは何かの操作室らしい。そう広くはない壁一面にスクリーンが、その前にはレバーやらボタンやらがずらりと並ぶ作業盤があった。
 最初こそ無人だったが直ぐに人の出入りが始まった。何人もが入れ代わり立ち代わり訪れ、その中にはヘザーの姿もある。
 凶事が起きたのは丁度ヘザーが一人でスクリーンに映る報道番組を眺めている頃だった。銃声がしたのだ。
 彼女は直ぐにスクリーン映像を監視カメラのものに切り替える。何分割もされた画面から瞬く間に問題現場を発見すると作業盤上のパネルを操作した。すると何かの稼働音が低く辺りを満たした。分割画面の幾つかで遮蔽扉が閉まっていくのが見える。
 完全に閉まったのを確認したヘザーは、突然腰の銃を引き抜きくるりと反転して構えた。監視カメラの角度では見えないが、彼女が銃を向けた先にはこの部屋の出入り口があることは対策本部の三人も察していた。
 現れたのは明らかに堅気ではない屈強な男たち八人と彼らに担がれた怪我人らしい男だった。この全員、そしてヘザー自身も同じ軍服を着ている。仲間か、とコルドが安堵したのも束の間、男たちは一斉にヘザーに銃を向けた。
 銃を捨てろ、動くな、大人しくしろ、とお決まりの台詞を並べる。人質を取られているヘザーは大人しく従い銃を床に置いた。
「何の真似だ」
 ヘザーが問いかけるが碌な返答は返ってこない。要約すると日頃の不満が爆発したということのようだが、彼らはその全てを言うことが出来なかった。
 ぎゃ! と悲鳴が上がり怪我人を両脇から抱えていた二人が倒れた。それを皮切りに銃声と共に男たちが悲鳴を上げて床に倒れた。撃たれた足を抱えながら恨み言を言おうとしたところヘザーに顔を踏まれる。
 男たちを撃退した彼女の指からは煙が漂っていた。





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