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 シクレイズ小学校校長の要望に端を発した記録映像の精査は滞りなく終了した。
 最初に話を受けたこと、そしてビデオの現物を管理していたこともあって文部科学省が場所を提供した。
 これに出席したのは次の通り。
 文部科学省副長官セラズ、同部長ギルフィゼア、担当者ミーロ。厚生労働省長官マイデル、同副長官カウラ、同次長ロブリー。外務庁長官コルド、同副長官イーガル、担当者キャネザ。そしてどこからか話を聞きつけたらしい元老院のアミンである。
 因みに、文部科学省長官は色々と理由をつけて来なかった。
 これに世界王秘書官を加えた十一名でスクリーンに映し出された映像を検め、最終的に問題なしと結論付けられ問題の小学校に視聴許可を出すことが決定した。
 けれど、途中全く問題が無かった訳ではない。
 映像はロブリー家の外観から始まった。男子生徒の声がその大きさに早くも尻込みする会話が入り込んでいる。皆微笑ましく見ていたのだが、始まって幾らも経たずにキャネザがコーヒーを噴き出したのだ。
 日替わりでロブリー家に駐屯している軍人が、背中の入れ墨を羨ましがる幼児に似たようなものを描いてやっているシーンだった。
 見ればキリアンも僅かに青くなっている。
 数分後、画面の中に登場した彼はこの世の終わりのような悲壮な顔をして入れ墨男を非難し、更にその後目を覚ました紅隆が息子の背中を見て一瞬硬直していた。
 先に確認した南殿側近子息が登場する箇所以外は彼も初見だったようで、その後も椅子を蹴立てなかったのが不思議なくらい狼狽したシーンが複数登場した。流石に不審なので「どうかしたのか」と問われるのだがキリアンは決まって何でもないと返答する。
 それらを思い返すに本当に子供に見せて大丈夫なのかと心配になるが、それぞれのシーンそのものを観ても何が彼をそれ程までに震え上がらせるのか分からない。
 これも「うちの連中に知られるのがマズイ」ものなのか。
 いいですよと軽く承諾したキリアンがそそくさと電話に立ったのもそれが理由だろう。
「あの入れ墨って、結局どういうことなんですか?」
 草臥れ切った顔で戻って来たキリアンにフィーアスが尋ねている。彼は億劫そうに質問者を見た。
 男子生徒の社会科見学は夕方までかかっていたが、映像の終盤には朝には居なかったフィーアスも登場する。画面の中の彼女は息子が興奮して頻りに見せる背中に笑顔を見せていると同時に周りのゴルデワ人たちの微妙な表情を不思議がってもいた。
 どうやら今まで詳しい説明も無いまま忘れていたようだ。入れ墨男自身は「この世で一番強くてかっこいい」と説明していたが、それだと周囲の反応と食い違う。注目を集める中、キリアンは苦渋の表情で目を泳がせている。
 意味のない声を発しながら説明を考えているらしい。そんなに不味いものなのかとこちらの顔まで曇って来る。
 その筋では有名だった破落戸集団の首領が実際に背中に入れていたモノで、首領が死亡し組織が解体した今でも影響力は絶大。この組織の入れ墨だけで震え上がる者がいるのと同時に名を上げるために狙われる標的にもなっている。あの入れ墨男はその組織のナンバー2だった。
 子供に乞われた手描きの作とは言え、「ナンバー2」が「首領の印」を「許した」という事実だけで大変なプレミアが付く。あの僅か数分のシーンだけで莫大な金が動くだろうとキリアンは締め括った。
「…………サルマンさんて、そんなに凄い方だったんですか」
 フィーアスは感心しているが、キリアンの空笑いと後ろめたそうな表情がそれだけではないと物語っていた。
 コルドはそっと部下を盗み見る。フィーアス同様感心した様子の他の者とは違い、彼女の表情は至って渋い。僅かに憂慮も見て取れ、疑惑に拍車をかけた。





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あきゅろす。
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