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 ここで述べられている三大王とは、現政権の二代前である第四五二代世界王だ。
 世界王政権と言うのは世界王が一人でも職責能力を失うと終了宣告が言い渡され政権崩壊となる。
 この三大王の場合は同日の内に三人全員が死亡した。
 近代化以降世界王の全滅は例が無く、当時は暫定政権もままならぬ程の打撃もあって混乱を極め、多くの文献、物品、情報が流出した。続いた五大王政権がこれらの回収に尽力したが、結局六割を達成した時点で当時の情勢もあり捜索は打切りまたは縮小したようだ。
 アリシュアは一時停止してある画面を指差す。
「あの子が持っているのはその時流出したモノじゃないかな。クァラノイノ定理って書いてあるし……」
 耳慣れない単語にミーロは思わず聞き返す。
 アリシュアの説明によると、月陰城の管理維持や情報処理を一手に引き受けている巨大コンピュータに組み込まれた演算処理原理の基礎理論構造だという。昔、クァラノイノというジオ直属の科学者が編み出したそれを元に当時の技術者たちが粋を集めた中枢処理頭脳が時代を経るごとに改良を重ねられ今の形になったのだ。
 外部の者がこの定理を手に入れてもジオの中枢処理頭脳を攻略できる訳ではないが、その足掛かりにはなるだろう。
 ジオにとっても固有財産だから、見つけた以上は取り戻さねばならない。
 それが今のキリアンの剣幕の理由だろう。
「マクベスはあの情報屋を通じて裏社会の何人かと面識があるんだぞ。ジオへの恨みで連中に渡さんとも…………………ああ、自殺だよ! あの子の目の前で自分で脳みそ融かしたんだからな。でもそこまで追い詰めたのはエーデだしひいてはジオだろ」
 こういう話こそゴルデワ語ですればいいのに、キリアンは無自覚なのかサンテ語でまくし立てている。
 生温く微笑んで聴覚情報を遮断したミーロとは違って外務庁組は彼らの動向を知ることも仕事の内だ。けれど話のあまりのグロテスクさにコルドは青い顔でキリアンから目を逸らした。
 キリアンは一頻り声を荒げた後うんうんと相槌を打ち始め、苛立たしげに髪を掻き回す。
「隠し通せる訳ないだろ。下手したら今度こそエーデは自分の息子をライガーにかけるぞ」
 息子なのか、と外務庁の二人は揃って画面を見た。
 南殿側近の年齢は知らないが随分若く見えた。それなのにもう高校生の子供がいるのか。自分にも大学生と中学生になる子供がいるが――と考えたところでコルドは後方の部下の息子は既に社会人なのだと気付く。
 キリアンは暫く電話越しの攻防を続けていたが、押し切られたのか苦虫を噛み潰したような顔で通話を終了させた。落胆の溜息を吐いてくるりと振り返った頃には既にいつもの顔に戻っている。
「申し訳ありません、ごたごたしてて……」
 まだ緊張冷めやらぬコルドは慎重に観覧不可かを尋ねたが西殿秘書官は笑って首を振る。さっきの今ではこの笑顔も空元気だと分かった。
「いや、サンテの皆様が観る分には一向に構いませんよ。うちの連中に知られるのがマズイってだけで……」
 キリアンは青褪めて硬直しているミーロに礼を言ってそそくさと仕事に戻って行く。何やら面倒なものが出てきて余計な仕事が増えたようだった。
 アリシュアはミーロを叱咤しながら一緒に片付けを始める。その場を二人に任せてコルドはキリアンの後を追った。
 公路の途中で追いついたコルドは早足で進むキリアンに並走しながらクァラノイノ定理について尋ねてみた。
 一時停止された画面上から読んだのだろうとでも思ったのか、キリアンは先程部下がミーロに語ったのと同じ内容の説明をしてくれる。コルドはどうしても気になって更に問う。
「先代神の……アレはそれと一緒に流出したということなのですか?」
 キリアンは足を緩め惻隠の籠った視線で返した。





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あきゅろす。
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