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 シクレイズ小学校校長の要望はその日のうちに三つの省庁に伝えられた。
 反応はまだ返ってきていないが検討の方向で問題はないだろう。
 世界王西殿秘書官は見学に異は唱えなかった。当然今回もそうだろうとコルドが軽く話を振ると、キリアンは神妙な顔で押し黙る。
 これにはアリシュアも首を傾げざるを得ない。子供が撮ったものにゴルデワ政府が不利益になるような何かが映っているとは思えなかった。秘書官の反応に、アリシュアとコルドは顔を見合わせる。
「……何か……?」
 ここで彼が否と言えば三省庁での検討する必要も無くなるが、見られて困るものは無いと言ったのはキリアン自身の筈だ。
 アリシュアの問いにもキリアンは眉間を寄せるだけで難しい表情を崩さない。暫くそうして悩んでいたが返答の代わりに映像の所在を尋ねてきた。
 ビデオカメラはミーロが管理していると答えると秘書官は立ち上がって言った。
「一点確認したい箇所があるんですが、先に観ても構いませんか? 何でしたら同席して頂いても結構ですが」
 出来れば今すぐ、という急いた様子にコルドは驚く。キリアンは毎日とんでもない量の仕事をこなしている。彼のスケジュールは秒刻みに詰まっているが、それを一旦脇に除けてまで早急な映像確認を要するというのだから逼迫した事態であることが窺えた。
 コルドとアリシュアは同席を希望し三人揃って文部科学省へ急ぐ。
「実は昨日、紅隆が意味ありげな事を言っていたので気になって……」
 出掛けに連絡をしておいたのでミーロは先程使用した応接室に視聴準備を整えて待っていた。中型のスクリーン画面が運び込まれ、ビデオカメラと端子で繋がっている。いつでも再生出来る状態で彼らを出迎えた。
 キリアンは素早い対応に礼を言いつつビデオカメラの再生ボタンを押す。
 紅隆からある程度情報を引き出していたらしく、キリアンは直ぐに該当箇所を見つけた。
 一時停止された画面には高校生らしい少年二名が映し出されているのだが、コルドはその一方の少年の顔を注視した。
 例のマンションで会った南殿側近に瓜二つだったのだ。違うところと言えば年齢と髪型、そして雰囲気くらい、誰が見ても近親者である。
 キリアンは南殿側近似の少年が携帯端末から表示させている空間ディスプレイを食い入るように見ている。彼の口からは驚きと悪態が漏れていた。
 西殿秘書官は携帯端末を取り出してさっそく電話を掛ける。電話は直ぐに繋がったようで紅隆を出すように要請した。
「何であの時点で取り上げないんだ! は? あれ一つじゃない? 当り前だろう!」
 ゴルデワ人の怒鳴り声が部屋に響く度、隅に控えたミーロは肩を跳ね上げる。
 挨拶もそこそこに上映が開始されてしまったので部屋を出るに出られなくなっていたのだ。
 仕事上、ミーロもキリアンとは何度も面識がある。恐ろしい人物ではないのも分かっていたのだが今のように激昂している姿を見るとどうしてもゴルデワ人であることを意識してしまうようだ。
 しかしそこはやはり文部科学省とは違うようで、外務庁の二人は話に夢中なキリアンの目を盗んで画面に近づき、この秘書官が問題にしているらしい空間ディスプレイに表示されている文章を読もうとする。けれど当然ゴルデワ語であることと映像の角度の問題でよく分からない。
 コルドは諦めて体を起こしたがアリシュアは厳しい表情でまだ食いついていた。
「…………分かるのか?」
 声を掛けるとアリシュアは我に返ったようにこちらを見上げ、「いいえ」とか細く答えた。
 キリアンはまだ押し問答を続けているようだ。「三大王」という単語が頻繁に出てくる。
 ミーロは傍らにまで下がって来たアリシュアに聞いたこともないサンダイオウとやらについて尋ねた。外務庁職員はすらすらと回答する。





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