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 大きな窓からは柔らかな日差しが注ぐ。
 その窓に近すぎず遠すぎず、程よく光源と温もりを得られる位置に置かれたカフェテーブルには小花が飾ってある。
 椅子が二脚にガラス製の茶器が二つ。傍らに止められたワゴンには同じくガラス製のミニポットとキラキラと輝く生菓子が用意されていた。
 それだけを見れば優雅なティータイムと言えるだろうが、実際は違う。巨大で空っぽな部屋の片隅にそれらがセッティングされているだけで、酷く寒々しい。アミンに対面するコルドの表情が窓からの光さえも遮断しようとしているようだった。
 紅茶で口を湿らせたアミンは子供でも宥めるようにゆるりと微笑んだ。
「怖い顔」
 一度窓の外に視線を転じたアミンは眩しさに僅かに目を細め、視線を落とし、再び目の前に座る男を見つめる。
「何を怒っているの?」
 勿論コルドは彼女とお茶をしにやって来た訳ではない。面談の内容も事前に通達済みだ。
「ゴルデワのキリアン・ワイアット氏と接触するのはお控え下さい」
「あら、どうして?」
 悪びれない様子にコルドも苛立ちを隠せない。
 権限委任許可証明書と共にやって来たアミンがキリアンと親しげにするのを対策本部の者は間近で見ている。対策本部は外務庁と内閣官房府の合同体、内閣府から派遣されている者たちはこれにかなり動揺した。
 対策本部付きの職員たちは「派遣」という名目上、朝一番は本来の職場に顔を出す。荷物などは主にそこに置いていくのだが、こういったゴシップも一緒に落としていた。
 最初の何度かはアミンの取り巻きがわざわざ対策本部までやってきてキリアン本人に約束を取り付けていたのだから、そもそも本人たちに隠す意思はない。呼ばれたキリアンも堂々と着替えるし、尋ねればアミンと会って来ると正直に答える。
 今はコルドが騒ぎ立てないようにと命じてはいるが、問題にならない方がおかしいのだ。
「元老院である貴女が、理由をお尋ねになるのですか」
「まさか不貞だ、なんて言わないでしょうね?」
 コルドは肯定しようとしたが、アミンの瞳が鋭く光ってそれを遮った。
「フェルニオ、貴方は私の夫でも子供でもない。ましてや政府がそのどれかである筈もないわ。迷惑をかけた訳でもなし、私が何をどうしようと私の勝手じゃない。売国奴と言いたいのならそれはお門違いよ。権委証の発行を乞われたのは事実だけど、彼は決裁速度の重要性についての説明を惜しまなかったし無理に回答を引き出そうともしなかった。私は十分よく考え、神や官房長官の意見も聞いた上で元老議題に上げて通したの。今まさにその恩恵を受けているのは貴方でしょう、外務庁長官」
「暴論です。権限委任許可証明書の発行を理由にするなら、発行が成った時点で関係の改善がされなければならない」
「ええその通りね。でも、そこまで言うならもう分かっているでしょう? 私は彼の職務の手助けをした。キリアンはその見返りを分割支払いしているに過ぎないわ。その支払方法において他人にとやかく言われる筋合いはない」
 その支払方法とやらが一番の問題なのだ。
「…………完済にはいつまでかかるんです」
 アミンは「さあ」と言って顔を逸らす。
 数いるアミンの取り巻きには不定期で入れ替えが起こる。百年以上側に置いている者もいれば一週間で顔を見なくなる者もいる。政治色の強いキリアンの場合はどうなのか。
「つまり何? 貴方は相手がゴルデワ人だから駄目だと言いたいの? とんだ人種差別ね」
 ゴルデワに対し強迫観念を持つのは最早国民性だ。それなら紅隆はどうなのだと問えばあれはハルニード人だろうと言い返す始末、コルドは無造作に目の前のカップを取って中身を飲み干す。ひんやりとした冷茶が怒りの炎を僅かに鎮めてくれた。
 おかわりを勧められ有難く頂く。





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