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 世界国家管理政府はいつの時代も人手不足に悩まされてきた。
 機関の性格上、登用するのは各分野において一定以上の実力を持つ者でなくてはならず、かといって乱獲すれば一つ一つの国そのものが回らなくなる。
 とはいえ、足りないものは足りないのだ。
 結局、現南殿側近エーデ・ツイズのように要職をいくつも掛け持つ者も多くいた。
「くそ、ふざけるなよ。今が一番少ないだろう、絶対!」
 どの代でもそう思う者は多くいるが、キリアンもその一人だった。
 公国の宣戦布告による情勢不安、三大王政権幹部の関与の発覚及びサンテへの不法侵入、モスコドライヴの捜索、武装集団の使用目的、逃走経路、次元口の探索。世界王二名の負傷により通常業務もその分過剰に振り分けられている。その上儀堂の横槍を心配しながらサンテ外務庁と足並みを揃えなければならずやきもきしているところへゾイドの隠し子がとんでもないところから現れた。
 お陰で南方は大騒動の真っ最中、西方も当然その煽りを喰っていた。
 限界である。
 揺り起こされたキリアンは顔を上げた先にアリシュアを見て一気に覚醒した。
 なけなしの背筋で上体を起こすと、そこは既に見慣れた対策本部の自分の席である。机に突っ伏して寝てしまっていたのだと自覚するより先に壁掛け時計が目に入り、とんでもない時刻を差す針に血の気が引いた。
 始業時刻は当の昔に過ぎ去っている。キリアンが最後に見た時刻より三十一時間も先の時間を示していたのだ。
「すみません、寝かせて差し上げたかったのですが」
 声がした方を向いたのは殆ど反射だった。そこにいたコルドは心底申し訳なさそうにキリアンに対し厚生労働省から呼び出しがあったことを告げた。
 マイデルが「今すぐ寄越せ」と言って聞かないのだと説明されれば、世界王相手に堂々と中指を立てるような人物に対してキリアン如きに拒否権などない。
 立ち上がるとその勢いで背中から毛布が落ちた。誰かが掛けてくれていたのだ。誰にともなく礼を言いながら手早く畳んで椅子の上に置く。その段になってやっとキリアンは自分の格好に目が行った。
 大分慣れて黙認してくれているこの対策本部とは訳が違う。プリントTシャツとジーンズ――しかもダメージ加工のワンクッション――にサンダル履きで出向ける訳がない。かといって今日はアミンとの約束もないのでまともな着替えなど手元にない。
 察したのか、アリシュアが「その恰好のままでいいですから」と言った。
「フィーアスのことらしいので、とにかくさっさと行って下さい」
「…………はい」
 ざっと机上を見渡すと端末の電源が落ちている以外の変化は見られない。携帯端末をポケットに突っ込みコルドに一礼し、キリアンは厚生労働省へ急いだ。
 奇異の視線を乗り越えてようやく第一執務局へ辿り着く。そっと中を覗き込み、近くを通った職員に素性と来意を告げると中に招き入れられた。
 どの省庁でも第一執務局の間取りは変わらない。当然それに沿って机の配置もされるので長官室の前の副長官席のカウラがキリアンの姿を見止め、ドアのノックで上司に客の到着を報せた。
「お待ちしておりました」
 現れたマイデルはキリアンの服装に片眉を跳ね上げたが何も言わず、長官室へと誘う。既に及び腰になっているキリアンの背をカウラが押して一緒に中に入った。その際部下たちに茶を断ったので、誰も乱入してはくれなくなってしまった。
 椅子を勧められ腰を下ろすと早速本題を切り出された。アリシュアが言った通りフィーアスについてで、今回の挙動不審の原因を尋ねられる。
 今回の、というところに苦笑するものの、生憎その答えを持っていない。
 そんなに不審なのかと聞けば力強く頷かれる始末だ。キリアンは携帯端末を取り出し職場へ電話を掛けた。





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