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 あまりの不発続きに、アリシュアはハンドルに突っ伏した。
 調子が悪いのでと仮病を使って仕事を半日で上がってきたアリシュアは、昨夜作っておいたリストを元に東奔西走していた。しかし行く先行く先次元探査機は無反応。あの無関心野郎本当に無関係だろうなと一人悪態を吐いた数十数回。あの女とっ捕まえて吐かせた方が早いんじゃ、との誘惑と戦った回数七回。もういい加減うんざりしていた。
 むくりと起き上がって建物の向こうに落ちていく夕日を眺める。
 夕日って不思議だなあと遠い目をしながらも、右手は隣のシートに放り出していた電子端末を持ち上げていた。
 起動させたスクリーンの市内地図上にはあちこちに×印がつけられている。点在し、密集し、法則性の無いその場所をひとつひとつ確かめたのだ。ようやくあと一つまで来たが、次で駄目ならもうアリシュア一人ではどうにも出来ない。隣町、州、東西大陸までは調べられない。それにもしかするとアリシュアの知らない独自ルートがあるのかもしれない。そうなればもうお手上げだ。
 重々しく溜め息を吐くと余計気が重くなる。目指す最終ポイントは繁華街のど真ん中だ。
 帰宅、下校のラッシュ時なのだろう、時間が時間なだけに行きかう人の数は半端ではなかった。何度も信号に引っかかったお陰で目的地に到着したときには辺りは真っ暗になっていた。
 悪態を吐きながら路肩に車を停める。探査機を入れたトートバッグと電子端末を下げて、アリシュアは細い路地へと入って行った。
 繁華街という猥雑を内包した街の路地は何処も似たようなものだろう。暗く湿っていて雑然としている。建物の陰で街灯も届かない小路をアリシュアは確りした足取りで突き当りまで進んだ。
 こんなところ、人も滅多に来ないのだろう。ひしゃげた空き缶が転がっている他に何もない。アリシュアは取り出した探査機を起動させ、袋小路の右角に向けた。
「あ」
 反応した。それも強く。
 つまりつい最近開口したという事だ。
 やっと……。アリシュアは思わず蹲って声を上げた。長かった。
 顔を上げて手元の探査機を見る。モニタ画面を見る限り、随分と連続して開口しているようだった。残存粒子量が通常の八十倍を示している。
 妙だ。
 ゆっくりと体を起こしながら、足元から這い上がるような違和感を覚えていた。
 何故昨日真っ先にあの公園の木に登ったのかと言えば、あそこが唯一ロウフォロア国内と通じているからだ。他にもあった路は何やかやと理由をつけてこちら側から潰してある。だから今日調べた市中の次元口の対岸は全て国外への路で、中にはとんでもない辺境に繋がるものもある。そして目の前の薄汚れた地面の突出点といえば──端末を操作してリストを表示させると「モーゼ」と出た。遠すぎる。
 カモフラージュの為にわざわざモーゼまで出向いてやって来たのか、たまたま近くにいて通知が来たのか……。
 どちらにしろ現政権の不手際だ。
 探査機を仕舞い、さてどうしようかと地面を睨む。次元口は物理的な穴ではないから塞ぐには専用の仕掛けが必要なのだが、今のアリシュアには用意する術が無い。舌打ちして何気なく振り返った時、薄汚れた壁の中途半端な位置に書かれていたそれが目に入ってきた。
 端末を光源にして確認すると、三重円の中に「立入禁止」と書いてある。
 ぎくりとした。何で!? と叫びそうになって慌てて口を塞いだ。
 ゴルデワ語だったのである。他の者では読めまい。しかもアリシュアは、その図に覚えがあった。
 本能が不味いと叫んだ。しかし無闇に立ち去るのはもっと不味いと経験で解っていた。
 こちらに近付いて来る気配を感じて、アリシュアは街灯の照らす表通りを振り返った。



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