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 ジオに対する世論の認識はこうだ。
 月陰城という象徴を掲げた儀堂による巨大政治機構。
 ロウフォロア政府と直接やり取りをする儀堂とは違い、月陰城は表だって出てくることはないからだ。ただし巨大という言葉では足りないくらいの威容を誇る高層ビル群の集合体がある為、誰もその「象徴」を疑うことはない。
 けれどこれは市民の大半を占める非支配階級や非戦闘職における認識だ。
 ジオに召喚される者たちは基本的に、それ以前から儀堂とは違う「月陰城」に辛酸を舐めさせられてきた。今もどこかで未来の幹部がジオの介入に苦虫を噛み潰している事だろう。
 かく言うこの場の面々もそうだ。儀堂出身のヴィンセントは言わずもがなである。
 かつて自分たちを苦しめ叩きのめし、そして拾い上げた人々が、今また再集結し牙を向く。
 一見ありそうな話ではあるが、一同は皆懐疑的だ。
 無論、事実既に集結している点を疑っている訳ではない。その集結を可能にした理由が問題なのだ。ニコールの言う通り、主犯格の動機が怨恨だとしても他の連中が果たしてそれに乗るだろうか。
 自分たちに置き換えて見れば判る。
 答えは否だ。
 まるでジオを相手にしているようだとニコールは言ったが、まさにその通りかもしれない。
「…………面倒だな」
 舌打ちしたザインマーが自分の頭からバンダナを毟り取る。長時間押さえつけられていた前髪が数束、ぱらりと額の傷跡に散った。
 昔ジオの職員と真正面からぶつかったことのある西の戦略軍師はぐったりと背凭れに身を預け、南の情報戦の魔女はインプットしたばかりの情報の中から現状での対応策を講じた。
 再びディスプレイを操作し、今度はイクサム国内地図を表示させる。
「潜入させている部隊の報告では、提出されたポイントの他に今のところ次元口は見つかっていないようだけど」
 世界王西殿並びに北殿が共同で行い、西軍の者が後を引き継いだサンテの次元口封鎖作業。一か所を除き、そのどれにも開口した痕跡がみられなかったのだ。唯一残存粒子が検出されたのはシーズヒル丘陵だが、この対岸リメンシュハはイクサムから七万キロメートルも離れている。
 ギデアインの姿はイクサム内でも確認している。彼が使った次元口がまだある筈なのだ。イクサムを拠点としているのなら国内かその周辺か。
 サンテ担当官に任命されてしまっているキリアンは落胆の息を漏らす。時期の前後が分からないとはいえ、これで「隊長」もゴルデワへ逃れている可能性が強くなったのだ。
 相手の目的が一つに絞られているなら遣りようは幾らでもある。しかしこのレポートや国際情勢を見る分にはとてもそうとは思えないのだ。複数の意志が縺れ合い互いに引っ張り合っている。
 いかに強力に見えても、その実はてんでバラバラな方向を向いているにも拘らず構造体としては取り敢えず個体を保っている。こういう「ジオ的」なモノは一番厄介なのだ。
「……どうしようかと思っていたけど、やっぱり行こうかな」
 一同の視線がニコールに集まる。イクサム行政府のネットウォールがかなり厳重になっていると中間報告があったことを説明し、首から引き出したプラグを空間ディスプレイの本体に差し込んだ。地図表示が縮小化し、ぎょろりと目玉の大きな痩身の男の上半身が表示される。
 その写真の周囲には、この男のモノらしき情報が拡散した。
 三大王シ邑朱方の情報戦略担当責任者という項目が目に入る。他にもジオにいた頃の役職がずらずらと並ぶのを見てヴィンセントがソース元を尋ねる。
「ソルフよ。リモート義体に検索させているけど……大丈夫、ハブはついてないから」
 さらりと言ってのける。密談場所をここに選んだのも偏にソルフに知られない為だが、こんなことで感付かれでもしたらと気が気ではない。





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