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 第454代世界王西方執行部においてロブリー家の存在意義は計り知れない。
 世界王西殿紅隆個人のマネジメントは元より、ごく自然に月陰城の外に出る口実が出来るのは有難い。
 ゴルデワ内で素直にジオの外へ出ようと思ったらどんなに急いでも一時間弱は掛かるし記録にも残ってしまう。
 密談場所として、この家ほど最適なものはない。
 家人が寝静まった頃、客室に集った男は四人。主催のキリアンに西殿側近ヴィンセント、筆頭秘書官レダ、軍師ザインマーである。
 ローテーブルを挟みソファに陣取った面々は一様に苦い顔で簡易空間ディスプレイを睨み、或いは眺めていた。
 ご丁寧に切れの鋭い考察付きで、複数企業の収支報告書や台帳一式、各国の政界・財界情勢の経過一覧等、一般市民のくせにどうやって入手したのか不明過ぎる極秘情報の山。考察も実に的を射ていて背筋が冷える。
 同時に、全く身に覚えのない金の流れが示されており、その意味を考えて四人は唸っていた。
「…………同じことをやろうとしているのかな?」
 最初に口を開いたレダは残る三者から視線で続きを促され口を動かす。
「内からやるか外からやるかの違いは大きいよ。まして外からは中に接触できないんだから。だったらこう、国家転覆を狙うくらいのことをしないと斬り込めないじゃないか」
「……理由が無い」
 難しい顔でザインマーが否定したが、これを止めたのはキリアンだった。幾分やつれた顔で聞かされた情報を投下した。
「…………」
 数秒、全員が黙り込む。
 普段軽薄な印象の目立つレダでさえ声をひっくり返しながら「……そうなんだ」と言うのがやっとだった。
「人を好きになったら性別なんて関係ないものよ」
 重い空気を払拭するように軽やかな女の声が鳴ったが、当然のように男たちは飛び上がるほど驚いた。振り返ったザインマーが何時からいたと声を上げる。
「いつって……、今よ今。遅くなってごめんなさいね」
 女はつかつかと歩み寄るとローテーブルの上で起動中の簡易空間ディスプレイの本体からプラグコードを引き抜き、髪を掻き分けることも無く過たずそれをうなじに突き刺した。「何度見ても……」という男たちの視線も意に介さず、女は僅か一分足らずで膨大なデータをインプットする。
「……へぇ。面白いわね」
 首から外されたプラグが勢い良く本体へ戻って行く。
 オーセル・ギデアインの関与が発覚した以上、公国関係に管見な西方だけでは対処が難しくなった。また元筆頭秘書官の関与と言う情報は南方にとっても大きい。この相互利益を踏まえ西南で共同戦線を張ることにした、その第一回目がこの集まりだ。
 ただし事態の逼迫度で言えば南方の方が上である。こちらはもういつ戦端が開かれてもおかしくない状況だ。誰が来るにせよ執行部はないだろうと思っていたのだが、実際にやって来たのはそれに比して余りある人物だった。
 南軍の副指令官を務める彼女は、側近職と兼務しているエーデに代わる実質的な総司令官だ。加えてフルビルディという特性上情報戦にも長けている。これほど強力な味方も無かった。
 ニコール・ヘザーは席を詰めさせレダの隣に座る。流石に大人が三人座るとソファもいっぱいだ。
 女はクールボブを揺らしながら改めて微妙な表情の男たちを笑う。
「サマルにだってこの手の店はあるでしょう?」
 知る筈がないだろうという空気が漂う。ニコールは表示されたままの空間ディスプレイを操作した。
「ただ、怨恨一択ともまた違うと思うけどね。これだけの面子ならどこにでも手を伸ばせるし、何だって出来る…………やだ、まるでジオを相手にしてるみたいね」
 笑い事ではない。事実、そうなりつつあるのだ。ディスプレイ上に表示されているのはこのジオで栄枯盛衰を体験した猛者たちなのだから。





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あきゅろす。
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