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主犯が誰かによって事態の様相は大きく異なる。
ジオに集まる者たちは往々にして社会から零れたものが多い。挫折した者、裏切りに有った者、死んだことにされた者――
多様な価値観が混然一体となって世界国家管理政府が形成されている。
例えば四大王南殿と東殿。この両者は政権開始直後から今日まで仕事内容以外の会話を交わしたことが無い。先日の件でワゼスリータのクラスで一緒になった時も、状況の確認も報告も互いの護衛たち、或いはキリアンとの間で交わされた。
更に、現政権は定期的に世界王で会議を開いているのだが、これも互いに顔を合わせたくないものだからルシータが出るときはジースが、ザガートが出るときはエーデがこれに出席していた。事件の後、定期臨時合わせて三度その機会があったが、最早世界王の会議というより側近の会議と言えた。
二人の仲の悪さはその出自や生い立ちの違いからくるものだ。方や貴族の家に生まれ育ちながらも出奔せざるを得ず拾われるまで人を遠ざけ続け、方や親も知らず貧困街で泥水を啜り自らを拾った富裕層の男を殺し逃亡の末にようやく与えられた安寧も世界王によって摘み取られた。似ているようだが根本が違う。ルシータには公国の考えが解るが最下層の人間の暮らしを知らず、ザガートは貧困の末の狂気を知るが金持ちの気持ちは未だに分からない。
そういう人間たちを一纏めにしたのがジオなのだ。
どの時代でもこの現象は同様に存在した。
現在西方が把握している者たちは半数以上が先々代、三大王政権の者たちだ。中にはさらにその前の代である四大王政権の者までいる。彼らの共通点はただ一つ、ジオに所属していたという事。
今のところ貴族の穏健派をたき付けた陰でサンテに武装集団を形成した以外目立った動きは見られない。これだけでは誰が主導しているのか分からなかった。
この二つは明らかにジオに対して影響を与えている。元ジオ職員が後輩に刃を向けることについて「解るような気がする」と暗く笑ったのはザガートだ。
「あの腐れポンコツにはみぃんなせい辛酸を舐めさせられている筈だからな」
流石にそれは偏見に過ぎるが、西方執行部はその可能性を十分留意した。何故と言って、451代目の排除を決めたのはソルフだし、452代目の全滅も自主性の有無は別にしてソルフの関与無しには不可能だったからだ。
問題は453代だが、今のところ確認されているのは三名のみ。世界王の近臣だった、という以外に今のところ共通点は見られない。
とにかく、誰もが主犯になり得るだけの能力と動機は持っているのだ。
この基本情報を聞かされたコルドは外務庁に戻って来るなりタイン相手に三十分に渡り愚痴を零した。かつて自らの所属していた組織に対し報復行為をすること、現職の職員たちが「さもあらん」と言うのだ。正直、元老院や改革派の気持ちが分かった気がした。
内部分裂の危険を猛烈に孕んでいる彼らとの付き合い方を考える必要があるかもしれない。
対策本部長がいつまでも席を開けておく訳にもいかずタインにも宥めすかされ、コルドはようやく重い腰を上げる。
けれど彼は直ぐには本部に戻れなかった。第一執務局内にある男の姿を見つけたのだ。
茶菓子を振る舞われてもてなされていたその男は、コルドを見るとカップをソーサーに戻し立ち上がった。
「こんにちは」
そう言うには既に日も随分傾いている。
「……どうやってここまで来られました」
キリアンが出入りするようになってから、防衛庁は宮殿内の全ての出入り口を押さえた。小さなドアの類には鍵を掛け、八ヵ所ある玄関ホールには人を配置し職員の出入りを監視しているのだ。
ランティス・カーマは小首を傾げ、口の端だけでゆるりと笑った。
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