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 月陰城の内部は想像とはまるで違った。
 外務庁に勤める者として、コルドも随分ゴルデワに対して理解を持つようになったが、それでもやはり根本の部分で恐怖感情が蔓延っている。もっとおどろおどろしい所かと思っていたが、以外にも殺風景だ。
 コルドを出迎え案内してくれたフライハイトの説明によると、世界王の人数に合わせて動線を組み替える際の効率化を優先しているという事だった。正直理解出来ていないが分かったように相槌を打つ。
 屋内を車で移動し十分。到着した医療棟では白衣の男に不機嫌そうに出迎えられ、フライハイトと共に彼の先導に続く。
 看護師たちが忙しそうにしている傍らを通り過ぎ、コルドが通されたのは廊下と地続きになったリクライニングルームだった。
 テレビやソファが設置されている。コルドらを見つけて、そのソファから立ち上がった者がいた。
「お忙しい中ご足労頂き、誠に申し訳ございません」
 そう言って頭を下げた人物が昏睡から覚めて丸一日経たない人物だとは誰も思わないだろう。コルドもてっきり彼はまだ病床にあると思っていたからこれには驚いた。
「起きていて大丈夫なのですか?」
 するとここまで先導してきた白衣の男が「まさか」とぼやく。
「本来ならベッドに縛り付けるべきなんですが、それで治る訳でもないですし本人も希望しているので仕方ありません。――ただし、いいか紅隆、俺が許可しないうちはさっきの範囲から一歩も出さんからな」
 言い捨てて鼻息荒く去って行った背中に紅隆は苦笑している。彼の傍らにいた看護師が世界王に座るように命じた。コルドも促されてその向かいのソファに腰を下ろす。
 フライハイトが茶の支度をしている間、コルドは紅隆の体調について尋ねる。治る訳ではない、というのが気になったのだ。
「……何と言いますか……、私の体は特別製でして……」
「……ハルニードのお生まれだそうですね」
 紅隆は一瞬動きを止めた。聞きましたか、と苦笑いする。
「空間能力も体組織の変換も私個人の特性……のようなものですが、その基礎基盤は確かに、あそこに生まれたことで得たものです」
 映像の中で切断され蜂の巣にされていた彼の体には一見してその痕跡は見えない。病人着から覗く肌には包帯も見えなかった。
「これまで使い物にならなくなれば体を組み直していたんですが、何分非常に時間がかかってしまい、世界王として即位している身ではなかなか難しいんです。この体は随分酷使していまして――、制御を全部外してしまったのでいつまでもつか……」
 そう言う世界王の瞳は髪と同じ橙色に変じている。
 視覚映像内にその一部始終があった。
 鑑賞会の質疑応答の中でキリアンから彼の現状を聞かされていた。
 キュラルは、現在把握している各界全種族の中でも頂点に立つほど生命力が強い。総じて、各種エネルギー値も飛び抜けている。紅隆はハルニードを出奔しゴルデワへやって来たが、ハルニードで使っていた肉体では規格に合わずゴルデワ用に作り替えたそうだ。
 けれどそれは小さな水風船に一ガロンの水を詰め込むようなもの。水風船を護るためには水を圧縮させ漏れ出さないよう抑える必要があった。
その制御が効いている証があの瞳の色だったそうだ。
「北殿は」
 紅隆は看護師を振り仰ぐ。彼女は硬い表情で首を振った。
「一命は取り留めましたが、いつになるか……」
「…………」
 フライハイトが戻ってくると、紅隆との間に卓が置かれコルドには紅茶が振る舞われた。対する紅隆は、何やら深緑色の怪しげな液体が差し出されている。当の本人も嫌そうに顔を顰めた。
「二時間後に血液検査しますからね」
看護師が早く飲むよう促す。
 紅隆はこの液体の原料を尋ねたが、看護師の生温い微笑みを見てその問いを取り下げた。





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あきゅろす。
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