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事件の全貌が明らかになったことで対策本部は大幅に拡張した。
まず本部の位置が外務庁第一執務室近くの会議室から三階に移動になった。三階に拘束していたクレウスは現在、防衛庁に身柄を移されている。その空いた小会議室もフルに使って一連の事態の対応が成されている。
最も大きく変化したのは内閣官房府が率先して関与し始めたことだ。そのために当初から協力してくれていた厚生労働省は任を解かれてしまった。
フィーアスやカウラは当然抵抗したが、これをマイデルが抑えた。てっきり一緒になって抗議するだろうと思っていたのでこのあっさりとした反応に拍子抜けし、また恐ろしくもあった。
厚労省が空けた席、そして拡張により増員された枠には当然のように内閣官房府の職員が座っている。数を見れば外務庁職員を上回っているが、どういう訳か彼らは日頃の高飛車な態度が鳴りを顰めていた。それどころか気持ちが悪い程協力的なのである。
対策本部長を内閣官房府職員に挿げ替えなかったのは、もしもの時の責任をコルド及び外務庁に負わせるためだろうが、それにしても彼らの従順ぶりは異様だ。
派遣された職員の中にはアーレンスの姿もある。草臥れきり悲哀さえ滲む彼を除いたほぼ全員がやる気に満ち満ちた目をしているのだ。
アリシュアと同様、自分の仕事を終わらせ対策本部にやって来た先輩外務庁職員はその異様な光景に眉を跳ね上げる。
「…………何なんだあいつら?」
その原因は程なく明らかになった。
ある日、取り巻きを引き連れてアミンが激励に訪れたのだ。
元老院が本宮の外、実務域に来るなど滅多にない。何事かと思わず立ち上がったコルドの隣では、新たに就任した内閣官房府の副本部長が真っ先に元老院を迎えに出向く。
彼女は穏やかに微笑みながら副本部長に導かれコルドの前に立った。
「調子はどうかしら?」
「…………あまり芳しくはありません」
コルドの言に副本部長が「何を言うんだ」というような顔をしたが、この状況でおべんちゃらを言う気は更々ない。そのための鑑賞会であった筈だからだ。
けれどアミンも不愉快そうな顔はしなかった。そうだろうと頷いて取り巻きの一人から一枚の紙を受け取り、コルドに差し出した。
「!」
「時間がかかってしまってごめんなさいね」
それは権限委任許可証明書だった。しかも元老院全員と神二柱の署名捺印がされている。
通常、何か事業を通すときはその省庁の長官の許可を先ず取る。その後内閣官房府へ通されるが、内閣は最終的にそれを元老院の審査を通してから神に回すのだ。
外務庁が以前から再三に渡り申請していた対磁力場工事案件も、どんなに進んでも元老院でストップしていた。
しかしこの許可証明書はそれら一切、神さえも通さなくていいというものだ。最終責任者氏名はフェルニオ・コルドとされている。
特殊な印刷技法が使われ複製不可となっているその紙の上にある自分の名前に、コルドは一気に血の気が引くのを感じた。
普段邪魔だとすら思っている上役たちの決裁を一切通さないという事はコルドの両肩に全責任が圧し掛かるという事だ。失策すれば首が飛ぶ。
二の句が継げずにいるコルドに気付いていないのか、アミンは部屋の端にも「ごめんなさいね」と声を掛けた。
「いいえ。ご尽力有難うございます」
立ち上がり、そう言って頭を下げたのは西殿秘書官だ。
アミンは取り巻きたちの制止も無視して秘書官の元へ歩み寄る。
「そう畏まらないでって言ったでしょ? また一緒に食事でもしましょうね」
アミンは秘書官の頬にキスをしてにこやかに去って行く。取り巻き数名が秘書官を睨んだが彼はビクともしていない。
「どういう事ですか?」
コルドは頬にキスマークを付けた秘書官を呼びつけ、厳しい表情で説明を求めた。
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